手術不要、注射による簡便な顎骨造成にマウスで成功:医療技術ニュース
東京医科歯科大学は、マウスの口腔内への注射によって顎の骨を造成させることに、世界で初めて成功したと発表した。この、手術不要の顎骨造成方法は、今後歯科臨床への応用が期待される。
東京医科歯科大学は2016年3月23日、マウスの口腔内への注射によって顎の骨を造成させることに、世界で初めて成功したと発表した。
この研究は、同大学大学院医歯学総合研究科の青木和広准教授の研究グループと、京都大学再生医科学研究所、米Cedars-Sinai研究所との共同研究によるもので、成果は同日、国際学術誌「Journal of Dental Research」のオンライン版で発表された。
歯が抜けるなどして、顎の骨が少なくなってしまうと、安定したかみ合わせが得られず、人工歯根も植えられない。また、口蓋裂など生まれつき骨が足りない小児には骨の移植が必要だ。そのため歯科臨床では、顎の骨を造成する方法が数多く開発されてきたが、これまで手術をせずに骨造成を促進する方法はなかった。
また、局所の骨を造成する薬として骨形成因子BMP-2(Bone morphogenetic protein-2)が挙げられるが、この因子単独で骨が十分作られる用量を使用すると、ヒトの口腔内では歯肉が腫れるなどの副作用を引き起こすことが指摘されている。そのため、BMP-2の使用量を抑えて、骨を効率的に誘導できる骨形成促進薬が求められていた。
今回、同研究グループは、BMP-2と、破骨細胞分化因子RANKLの作用を阻害する分子量1400ほどのペプチドOP3-4とを組み合わせた薬剤をマウスの上顎に注射した。この際、薬剤を注射した局所に留めておくために、粒子状のゼラチンハイドロゲルを用いた。
その結果、注射1週間後から、骨形成関連遺伝子の発現が亢進しており、4週間後には、注射した部位に明らかな骨造成が認められた。また、副作用を考慮して使用量を抑えたBMP-2のみでは、十分な顎の骨は造成されなかったが、この少量のBMP-2にペプチドOP3-4を併用することで、骨の量は倍以上に増えた。
この研究は、骨が欲しい部位に注射するだけで骨を作れることを、マウスモデルで示したものだ。今回開発された、手術不要で患者に負担の少ない顎骨造成方法は、今後、歯科臨床への応用が期待される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 加齢とともにハゲる仕組みを解明、予防や治療へ
東京医科歯科大学は、加齢に伴う薄毛・脱毛の仕組みを解明したと発表した。幹細胞が老化してフケ・垢とともに皮膚表面から脱落し、毛を生やす小器官が段階的にミニチュア化(矮小化)することで引き起こされるという。 - CTスキャンした大腿骨のモデルに解析メッシュを切る
今回は、実物をスキャンし、そのモデルに解析メッシュを切るツールの話。大腿骨のインプラントデータ作成を例にその作業の流れを見ていく。 - 3Dプリンタで成形する「カスタムメイド人工骨」をEU諸国で製造・販売
NEDOプロジェクトにおいて、3Dプリンタで成形するカスタムメイド人工骨CTボーンを開発したネクスト21が、2015年4月30日にオランダXillocとEU諸国における製造・販売に関するライセンス契約を締結した。 - 「世界初」3Dプリンタで人工骨を成形、薬事承認申請
NEDOの支援を受けた研究チームが、3Dプリンタでカスタムメイドの人工骨を成形する「世界初の技術」(NEDO)の薬事承認を申請。熱処理を伴わずに微細な成形を行える3Dプリンタ製の人工骨は、自骨への癒合も早く、時間経過で自骨に変化(骨置換)するという。 - 骨年齢を安全システムに? ジャイロ効果で転ばないバイクも! 学生安全コンペの日本代表が決定
自動車技術会は、各国の学生チームが安全問題解決のための技術アイデアを競う「2015年 学生安全技術デザインコンペティション(SSTDC)」の日本大会を開催。スウェーデンで開催される本大会への出場権をかけて、東京都市大学、芝浦工業大学、日本大学の3チームがそれぞれのアイデアを競った。