ゴム業界の常識への挑戦が生んだ、水素ステーション普及の“立役者”:イノベーションで戦う中小製造業の舞台裏(7)(5/5 ページ)
自社のコア技術やアイデアを活用したイノベーションで、事業刷新や新商品開発などの新たな活路を切り開いた中小製造業を紹介する本連載。今回は水素ステーションに採用された「耐水素用ゴム材料」を開発した高石工業を紹介する。
製品化に向けたもう1つの課題を乗り越える
教授の研究の結果、耐水素用Oリングのゴム材料としては、水素溶解量が低く、破壊強度の大きいゴム配合の開発が必要だと分かった。また、Oリングを取り付ける溝設計にも対策が必要と判明したそうだ。
教授が学会で研究発表を行った際、メーカー側から「そのゴムを試させてほしい」という依頼があった。教授は研究しているだけで製品を作っているわけではないので、同社を紹介した。ここから高石工業の耐水素用ゴム材料の製品化に向けた本格的な取り組みが始まった。
耐水素養ゴム材料を実用化するためには、薬品の配合などの他にもう1つ課題があった。水素タンクに充填した水素はマイナス40度に冷やされる。ゴムは冷えれば硬化して弾力が失われ、パッキンとしての機能が果たせなくなる。その課題をクリアするために、高橋さんはマイナス40度の耐寒性を持つゴムの研究に取りかかった。
多数ある薬品の中から、耐寒性を向上させる効果がある薬品の種類を検討し、最適な配合を見極めるのは容易ではない。「新材料を研究開発する」といえば、最先端のカッコイイ業務のイメージがあるが、実際は地道な作業の繰り返しだ。
高橋さんは「5回目にダメだったときには、心が折れそうになりました」と苦笑とともに当時を振り返る。しかし結果的に2年半という短期間で新材料を作り、耐水素用ゴムのOリングを製品化できたのは、効率的にデータを取り、得られたデータを解析する統計的手法を駆使したおかげだという。
同社は、この耐水素用ゴム材料の研究がきっかけで、ゴム材料の開発支援が自社の強みであると気づいたそうだ。ユーザーは、「ゴムのことはよく分からない」「こんなことができるだろうか」と不安や悩みを抱えながら、問い合わせをしてくる。
そのゴムパッキンがいったい何に使われるのか、形状や材料だけではなく、ユーザーの「作りたい!」という気持ちをじっくり聞くところから、同社の新たなチャレンジが始まる。
初の海外生産にもチャレンジ
チャレンジといえば、もう1つ新しい動きが同社にある。これまで国内自社工場で一貫生産をしてきたが、現在、ベトナムに新工場の稼働準備をしている。
初の海外進出のため、さまざまな懸念もあったそうだ。技術の流出もその1つだ。門外不出といわれるゴム素材の配合を守るため、当面は配合済みの材料をベトナムに送り成形する。「状況に応じて生産体制は変わっていくでしょうが、秘伝の配合は漏らさぬようにキッチリと守ります!」と高石氏は笑う。
筆者プロフィール
松永 弥生(まつなが やよい) ライター/電子書籍出版コンサルタント
雑誌の編集、印刷会社でDTP、プログラマーなどの職を経て、ライターに転身。三月兎のペンネームで、関西を中心にロボット関係の記事を執筆してきた。2013年より電子書籍出版に携わり、文章講座 を開催するなど活躍の場を広げている。運営サイト:マイメディア
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