検索
特集

運転支援システムの有用性が自動運転の受け入れイメージを作り出す自動運転技術 ホンダ上席研究員 横山利夫氏 講演レポート(3/3 ページ)

「オートモーティブ・ソフトウェア・フロンティア2016」の基調講演に本田技術研究所 四輪R&Dセンター 上席研究員の横山利夫氏が登壇した。ホンダの自動運転の取り組みを紹介。また、2016年は「Honda SENSING(ホンダ センシング)」に新たな機能を加え、運転に伴う負担をさらに軽減していく。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

1社では実現できない領域

 将来の自動運転は自律型から協調型に進化し、コミュニケーションと知能化技術を組み合わせたシステムになっていく。例えば、自律型のセンシング技術では対応が難しい見通しの悪い場所で、行き交うクルマ同士が歩行者の位置などについて教え合うことが可能になる。また、ドライバーの知能とクルマの知能が助け合うことで、より安全な運転を実現できるようにもなるだろう。

 また、将来に向けた研究領域としてはパーソナライゼーションがある。現状では、走行モードの選択やシート、ミラーの位置などが個人に合わせられるようになっている。将来は、ドライバーとクルマの双方の知能が助け合うことで、クルマがドライバーの好みを学習し、ドライバーの行動に適応した制御に近づけていけるようになる。自動運転中も、ドライバーの普段の運転をコピーすることを可能にする。

 学習も重要な研究領域となる。今後は、より複雑な環境のシナリオを学習する必要が増していくからだ。学習には幾つか種類がある。1つはドライバーが教師となる学習で、クルマはドライバーの運転行動を手本に賢い運転を学ぶ。もう1つは教師なしの学習で、自ら学んで賢くなる。さらに、他のクルマから学ぶことも考えられる。ドライバーの運転や自らの学習によって得た経験を、通信を使って交換するようなことも想定できる。

 各社の協力やコラボレーションが必要な分野も紹介しよう。内閣府が主導する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の1つに自動走行システムがある。システム実用化、次世代都市交通、国際連携の3つのワーキンググループから自動走行システムの実用化に取り組んでいる。

 SIPで協調する領域の代表例はダイナミックマップだ。専用の測量車両で作成した高精度地図の上に、高精度地図とひも付ける建築物や交通状況などの情報を積み上げていく。高精度地図は自動化のレベルを上げていく上で重要だ。各社が個別で取り組める分野ではないので、業界全体で取り組むべき共通のテーマとなる。

ダイナミックマップは業界が協調して取り組むべき開発課題の1つ
ダイナミックマップは業界が協調して取り組むべき開発課題の1つ (クリックして拡大) 出典:ホンダ

 SIPが取り組むもう1つのテーマはHMI(Human Machine Interface)だ。車両モデルごとにインタフェースが異なるとユーザーの混乱を招いてしまうため、協調して開発しなければならない。自動運転中は、突発的な出来事に安全かつ適切に運転の権限を切り替える必要がある。また、自動運転車とドライバーが運転する車両が混合交通する場合のコミュニケーションも課題に挙がっている

自動運転車には共通のHMIが必要になる。他の車両や歩行者とのコミュニケーションも課題に
自動運転車には共通のHMIが必要になる。他の車両や歩行者とのコミュニケーションも課題に (クリックして拡大) 出典:ホンダ

 自動運転用の車車間/路車間(V2X:Vehicle to X)通信も協調領域のテーマだ。センサーでは得られない500m、1km先のリアルタイムな情報を収集できるようにすることによって自動化のレベルを上げる。

車車間/路車間通信は、センサーでは得られない500m以上先の情報収集や、スムーズな車線変更、合流に役立つ
車車間/路車間通信は、センサーでは得られない500m以上先の情報収集や、スムーズな車線変更、合流に役立つ (クリックして拡大) 出典:ホンダ

国際条約も含め、法律の課題も

 1949年にジュネーブで、1968年にウィーンで道路交通条約が結ばれた。両条約とも、乗り物にはドライバーが存在し、ドライバーによって制御されるべきだと定義している。日米はジュネーブ条約に、欧州各国は主にウィーン条約に加盟している。

ジュネーブ条約法規制見直しの動向 ジュネーブ条約の従来の条文と2015年3月に採択された改正案(左)。技術開発の進展を視野に入れた法規制の見直しが進む(右) (クリックして拡大) 出典:ホンダ

 ウィーン条約は、自動運転のレベル2までカバーする条文に改正された。自動運転の実現に向けて、日本の道路交通法も変わっていく必要がある。現状の法律では、緊急時のみドライバーが操作する、あるいは常にシステムが運転する自動運転には対応できない。政府は調査検討委員会を発足し、実証実験のガイドラインや、自動運転の刑事上/行政上/民事上の課題を整理している。自動運転のレベルに応じて法律がどう対応するべきか、検討が進んでいる。

自動運転の技術開発に合わせて道路交通法を見直す調査検討委員会が発足
自動運転の技術開発に合わせて道路交通法を見直す調査検討委員会が発足 (クリックして拡大) 出典:ホンダ

 公道を走る車両の要件を定めた道路運送車両法も変わらなければならない。UN-ECE(国際連合欧州経済委員会)のWP29(自動車基準調和世界フォーラム)傘下のGRRF(ブレーキと走行装置)内に自動操舵専門家会議を設けた。日本では国土通省自動車局が主体となり自動車工業会も協力する形で、時速10km以上での自動操舵を禁止する条文をどう改正していくか検討している。

自動運転車の定義や要件についても議論が進む
自動運転車の定義や要件についても議論が進む (クリックして拡大) 出典:ホンダ

 また、国連のWP29では自動運転のレベル3以降について議論中だ。GRRFはレベル2までの運転支援機能の作動するパターンを状況ごとに必要な要件を議論している。

 自動運転技術は、開発競争が進むことにより、車両が加減速/制動/操舵を制御しながら高速道路を走れるまでに高度化した。一方で、自動運転に対する受容性には差があり、法律や規制も十分には対応しきれていない。さらに、交通事故や渋滞をなくしていく上では自動車メーカー1社でできる範囲に限界があり、協調した取り組みが不可欠となる。さまざまなことを同時並行で進める柔軟さを官民で持つ必要がありそうだ。

前のページへ |       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る