統計の食わず嫌いを直そう(その10)、ワインを飲まずに品質を予測する方法:山浦恒央の“くみこみ”な話(82)(2/3 ページ)
統計アレルギーの解消には、身近な分野で考えてみることも大切です。今回は「ワインを飲まずに、ワインの品質を予測する方法」を例に統計に触れてみましょう。
3. ワイン界の価格予測法
3.1 プロの予測
最も単純なのは、プロに評価してもらい価格予測をすることです。例えば、ワイン界の帝王のロバート・パーカーに試飲させ(*4)、彼が「このボルドーは1982年物に匹敵する高品質だ」と言えば、おおよその品質と将来的な価格を予測できます。実際、パーカーが高得点を付けたワインは、価格が急上昇し、瞬時に市場から消えます。パーカー・ポイントは、典型的なKKD(勘、経験、度胸)方式と言えます。
3.2 統計学を応用した予測
プロの経験による予測と対照的に、「数学の帝国」といわれるアメリカのプリンストン大学の経済学者、オーリー・アッシェンフェルター(もちろん、大のワイン好き)が統計的な手法でボルドー・ワインの価格を予測する数式を発表しました。1984年のことです。従来のプロによる評価法には、「出来立てワインから将来の味を予測するのは困難」「KKD(勘と経験と度胸)に頼るため、素人が評価できない」という問題があります。それぞれの問題点について、解説します。
3.2.1 出来立てワインから将来の味を予測するのは困難
ワインを試飲して評価する最初のタイミングは、樽で熟成している段階です。しかしこの状態ではボトルに入っておらず、商品になっていません。生まれたての赤ちゃんを見て、「この子は将来、世界的なピアニストになる」と予想するようなものです。
評論家は樽からボトルに詰めた直後に試飲しますし、何年かおきにチェックします。ワインは生き物ですので、味や熟成の可能性は年々変化します。樽に入った状態での試飲では最高品質と評判になり、30年後が楽しみと言われたのに、瓶詰めの10年後からへたり始めたり、その逆もあります。これが、ワインの面白いところです。トップ・プロの予測が外れることもあります。
3.2.2 KKDに頼るため、素人が評価できない
ワインを評価するのは、その道のトップ・プロです。当たり前ですが、素人が簡単に評価できるものではありません。
上記の2つの問題から、アッシェンフェルターは素人でも価格予測できる方法を模索しました。ワインの味、香り、熟成の可能性を従来の予測法でなく、天候だけで予測する数式を考え出したのです。ワインはブドウだけを原料としており、天候の良い年は、良いワインができると考えました。過去の天候のデータと、ワインの価格のデータを大量に収集して分析し、両者の相関関係を求めたようです。これがいわゆる「アッシェンフェルターのワイン方程式」です。
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