米国の事例に見る、マルチデバイス化する「非医療機器」のリスク管理:海外医療技術トレンド(8)(3/3 ページ)
近年、健康増進用途の消費者向けウェアラブル端末やモバイルソフトウェアなど、医薬品医療機器等法(薬機法)の適用対象外となる「非医療機器」のマルチデバイス化が進んでいる。それに伴ってどのようなリスクが出てくるのか。米国の動向をみてみよう。
FTCが注目するクロスデバイストラッキングのプライバシー対策
現在、OTRIが最も注視しているのが、クロスデバイストラッキングに関わる新技術とプライバシー/セキュリティ対策だ。クロスデバイストラッキングは、マルチデバイスを前提としたデジタルプロモーションの行動履歴分析などで広く利用されてきた。
従来、PCのブラウザでは、サードパーティークッキーを用いた行動履歴分析が行われてきた。ただし、スマートフォン/タブレット端末の場合、Twitter、Facebookなどのアプリケーション内のブラウザでWebサイトを表示する場合と、標準的なブラウザ上でアプリケーションを実行する場合では、利用されるクッキーが異なるため、横断的な行動履歴の蓄積が行えない可能性がある。
また、従来のiOSやAndroid OSであれば、ユーザーからの変更ができない端末IDを利用してデバイスの個体識別を実行できたが、近年は、プライバシーに対する懸念から、取得不可となったり、制限を受けたりするようになってきた。
このような状況の中で、デジタル広告企業は、クロスデバイス/クロスブラウザにおける行動履歴収集を可能にするアドテクノロジーの開発を進めている。最新のアドテクノロジーを採用すれば、個々のユーザーの属性や嗜好にパーソナライズされたターゲティング広告の配信が可能となるが、同時にプライバシー/個人情報の問題も顕在化する可能性がある。
ヘルスケアの場合でも、スマートフォン/タブレット端末に加えて、体温計、血圧計、体重計など、さまざまなデバイスから生成されるバイタルデータを一元的に管理しようとすると、クロスデバイストラッキングの技術は欠かせない。
また、ヘルスケア関連のサービス事業者が、広告収入型ビジネスモデルを採用すれば、クロスデバイストラッキングを活用したアドテクノロジーが入ってくる。この場合、行動履歴の分析によって広告主が特定の個人を識別できたり、既往歴が推測できたりすると、ユーザーの間でプライバシーの懸念が高まる可能性がある。
FTCは2015年11月16日、デジタル広告業界の専門家などを招き、クロスデバイストラッキングに関するワークショップを開催した(関連情報)。クロスデバイストラッキングを実現するテクノロジーとして、サードパーティークッキー、確率的マッチング、決定論的マッチング、ハッシュIDによるマッチング、電子メールを利用してクロスデバイストラッキングを可能にする手法などを取り上げながら、以下のような項目について議論している。
- クロスデバイストラッキングのタイプの違いと用途
- 消費者と企業のベネフィットとリスク
- プライバシーとセキュリティの懸念
- 業界自己規制プログラムの適用
クロスデバイストラッキングの導入によって、情報の収集、共有、2次利用に関わるオプトイン/オプトアウトのプロセスが複雑化すると、プライバシーポリシーや運用プロセスの見直しが必要となってくるだろう。
このワークショップのタイミングに合わせて、広告業界では、デジタル広告アライアンス(DAA)が「クロスデバイスを利用したデータの透明性とコントロールの自主規制原則」を公表している(関連情報、PDFファイル)。
今後、広告収入モデルによる消費者向けヘルスケア関連サービスを展開する企業は、クロスデバイストラッキングがプライバシーに及ぼす影響度を事前に評価する必要がある。また、さまざまなヘルスケアデバイスの生成データをリアルタイムで一元的に管理するためには、アドテクノロジーの事例をユースケースとしながら、クロスデバイストラッキング技術を適用するベネフィットとリスクを検討する必要があるだろう。
筆者プロフィール
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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