短期と長期の運動記憶の画像化に成功:医療技術ニュース
東京大学は、短期と長期の運動記憶が、脳内で異なる場所に保存される様子を画像で捉えることに成功。早く学んですぐ忘れる記憶と、ゆっくり学んで長く残る記憶の違いを、脳活動計測と数理モデルを組み合わせて実証した。
東京大学は2015年12月9日、短期と長期の運動記憶が脳内で保存される様子を画像で捉えたと発表した。同研究は、同大学人文社会系科の今水寛教授(ATR認知機構研究所客員所長)、北海道大学、南カリフォルニア大学などの研究グループによるもので、成果は同年12月8日に、オンラインの国際科学誌「PLOS Biology」に掲載された。
試験前の一夜漬けのように、早く覚えたことはすぐ忘れてしまうが、自転車の乗り方のように時間をかけて練習したことはずっと覚えている。このように、短期と長期の運動記憶が脳内に存在することは、これまで理論的に示されていた。しかし、脳が短期と長期の運動記憶を保存する様子を可視化して、これまでの理論を支持するような実証的な成果は得られていなかった。
同研究グループは、短期と長期の運動記憶が脳の異なる場所に保存される様子を、世界で初めて画像として捉えることに成功した。これは、機能的磁気共鳴画像(fMRI)法という脳の活動を計測できる方法と計算論モデルを組み合わせることで可能になった。
実験では、参加者に、fMRI装置の中でジョイスティックを操作する課題を学習してもらった。その結果、今回明らかになった範囲では、極めて短期(数秒で学習して数秒で忘れる)の運動記憶には前頭前野や頭頂葉の広い場所が関係していること、中期的(数分から数十分かけて学習して忘れる)な運動記憶には頭頂葉の中でも限られた部分、長期(1時間以上かけて学習しゆっくり忘れる)の運動記憶には小脳が関連することが分かった。
また、脳の場所ごとに異なる4つの主な記憶タイプがあることも示唆された。その内訳は、早く学習して早く忘れるタイプが2つ、遅く学習していつまでも記憶するタイプが1つ、中間的なタイプが1つだった。
今回開発した、脳の計測と計算論モデルを組み合わせた方法を用いることで、脳の内部状態を推定し、どれくらい長期に残る記憶なのかを予測することができる。この成果は今後、脳の状態をモニターしながら、練習効果が長く残るトレーニングやリハビリをしたり、効率的な学習プログラムを開発したりといった応用が期待される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「超小型衛星の世界を変える!!」――世界最小クラスのイオンエンジン「MIPS」
東京大学 先端科学技術研究センターの小泉宏之准教授と次世代宇宙システム技術研究組合(NESTRA)が共同開発している世界最小クラスのイオンエンジン「MIPS」。このMIPSとは一体どのようなエンジンなのか、これにより超小型衛星の世界がどのように変わるのか。開発者に聞く。 - 運転能力を低下させる白質病変、東京大学らが実車実験で確認
東京大学と高知工科大学は、医学的に症状のない軽度の大脳白質病変(以下、白質病変)と診断された高齢の運転者は、そうでない高齢の運転者に比べて、運転能力が低下していることが実車実験で確認できた、と発表した。 - 心臓を“設計”する! 東大の人工心臓研究に「PTC Creo」が採用
PTCジャパンは、東京大学大学院医学系研究科の研究グループが完全置換型人工心臓の開発に同社の3次元CAD「PTC Creo」を活用していることを明らかにした。 - 「IoTを適切に使うのは難しい」――東大 坂村健教授
TRONで知られる東京大学教授の坂村健氏は、「IoTが社会を変えられるかどうかの鍵はオープン性にあるが、同時に“適切な利用”を行うための高度な判断が求められる」と述べる。 - 東大主催ハッカソン「JPHACKS」に3D技術を体感できるWebサービスAPIを提供、オートデスク
オートデスクは、東京大学本郷キャンパスで開催される国内最大規模の学生向けハッカソン「JPHACKS」(会期:2014年12月13〜14日)に協賛。参加者に対し、同社のWebサービスAPIを提供すると発表した。