サンマのイイ感じの焼き加減を解析! おいしさや楽しさを届ける調理器具開発とCAE:CAEとスパコン活用事例(3/3 ページ)
パナソニック アプライアンス社は、キッチン家電をはじめとする製品設計において、CAEをフル活用している。外部スパコンも使い分けながらうまくシミュレーション環境を構築している同社だが、本格活用するようになったのは「とあるトラブル」が原因だった。
パンを焼く人には気になる焼きむらも
パンやクッキーを焼く人なら、焼きむらは気になるところだろう。実際にユーザーからの要望も多いという。そこで同社では、電子レンジのオーブン機能でパンを焼いた場合の焼き色のシミュレーションも行っている。これは焼き上がり頃のパンの表面温度コンター図で確認する。加熱は背面側のシーズーヒーターで行い、その内側のファンが温まった空気を庫内に強制循環させる。ファン1つの性能なら社内PCでもシミュレーションでよいが、全体の対流、固体伝熱なども加わってくるとスパコンが必要になるという。使用したのは計算科学振興財団の産業利用向けスパコン「FOCUSスパコン」だ。距離的にも同じ神戸市なので近い。
図9が改善前と後で実際に焼いたものとシミュレーション結果を比較したものだ。実験とシミュレーションで焼けやすい場所がおおよそ一致していることが確認できる。「この辺が焼けすぎるだろうと予測すれば実際にそうなるというレベルにまで来ています」と林氏はいう。さらに図9の下の図では熱風の可視化を行っている。これにより高温の空気の流れがどのように行き渡っているかを確認できる。「実験では焼けた、焼けていないの理由が分からず結果だけが出ます。プロセスが見えるので対策も立てられるのが、シミュレーションの大きなメリットになります」(林氏)。
解析ではポイントを見抜くことが大事
パナソニックは、業界に先駆けて家電のシミュレーションに取り組んできたという。当時シミュレーションといえば重工業で、家電のイメージはなかった。だが林氏はインターンシップではじめて家電のシミュレーションを見て新鮮さと興味を持ったという。
全くCAEの経験がなかった林氏だが、入社してほどなく、量産の際に生じる不具合対策の現場で修業を積むことになったそうだ。不具合が出れば設計側に連絡が入る。そのたびに「救急車のように、すぐに現場に向かっていました」と林氏は言う。現場の担当者に壊れた製品と2次元図面を渡され、「明日までに原因を解析して解決策を提示して」ということもあったそうだ。
3次元モデルを作って解析し、原因を推定するが、詳細モデルを使っていては解析は何日たっても終わらない。仮説の検証に必要な要素が何かを見極めて、簡略化する必要があった。この時の試行錯誤によって、解析に重要なポイントを見極める目を養ったという。「この時の経験があったからこそ、その後さまざまな種類の解析や、異なる製品にも対応できていると思います」(林氏)。
現在は計算機のスペックが上がってフルモデルの解析も容易になったが、ポイントが分からないまま漫然と解析をすると、役に立つ答えは得られない。また解析手順に間違いがあっても気付かないまま進めてしまう。そのためどんな時でも重要なポイントを考えることは大事だということだ。
スパコンのメリットは?
スパコンでのシミュレーション環境は「ANSYS Fluent」を利用している。ノートPC1台でジョブを実行することも結果を確認することも可能だ。社内でHPCを用意しようとすると、準備や工事、維持管理など非常に手間がかかる。「これでは稼働率を相当上げないとペイしません。一方コンピュータの性能はアップし続けているのだから使わない手はありません」(林氏)。外部スパコンは低コストで高性能のスペックを利用できるよい手段というわけだ。現在ではサイズの小さいものはデスクトップ、大きなものは外部スパコンと使い分けているという。
CAEの目的については「全部シミュレーションに置き換えたいというより、実機ではできなかったことをやること」だという。魚の焼き網をプレートに変えてしまうような斬新な変更も、シミュレーションなら素早くさまざまな例を検討できるといった具合だ。なおコンピュータのする仕事はどんどん増えていくと林氏はいう。ゴールを設定さえできればそれはコンピュータの仕事になる。そのため技術者は常に新しいことに取り組むくせを付けておかなければいけないのではという。
CAEの新たなチャレンジで、未来の調理器を作る
今後もCAE活用に関して新たなチャレンジを行い、かつ業界初の調理家電の機能を実現していきたいと林氏は語る。パナソニックでは創立100周年記念に向けて、より革新的な調理機器を開発中だという。CAE活用によってどんな新たな価値が作り出されるのか楽しみだ。
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