自動運転で「所有から利用へ」が本格化?:自動運転技術(3/3 ページ)
2015年11月8日に閉幕した東京モーターショーでは、次世代小型モビリティやパーソナルモビリティの試乗もあり、出展各社の取り組みは非常に興味深かった。大手自動車メーカー各社とも、自動車の電動化もまた避けて通れない道として認識されているが、象徴的なところでは、走りを追求したホンダの「CIVIC TYPE R」、ロータリーエンジン搭載のコンセプトモデル「Mazda RX-Vision」など内燃式エンジンによる自動車の魅力も再訴求されている。
自動運転車が事故を起こした場合の責任の所在
しかし、無人の自動車が呼び出しに応じて乗車希望者を迎えに行くような世の中は、まだ先のことになりそうだ。
課題は主に2つ、安全性の確保と事故を起こした場合の責任の所在である。安全性の観点からは、自動運転で走行中に、プログラムの誤判断で構造物に激突したり、高いとこから転落したりすると運転者の安全にかかわる。また、他の車両や歩行者を巻き込むような事故にもつながりかねない。衛星測位によるリアルタイムの位置情報取得、クラウドを利用した地図情報の更新、車車間通信による自車周辺の安全環境など、通信による制御には、通信が途切れた場合の冗長性が求められる。そうした安全対策を万全にしようとすれば、航空機並みの装備となり、価格も航空機並みになりかねない。予測不可能な動物の侵入や障害物の落下が起こり得る路上よりも、むしろ、トラフィックが厳格に管制され、不測要素が少ない上空をオートパイロットで飛ぶことができる航空機の方が制御しやすいともいえる。
そして、万一、自動運転車が事故を起こした場合、自動車の操作のミスはあくまでも乗車している人の責任となるのか、あるいは、車体の不具合として製造者が責任を取る必要があるのか。
ますますソフトウェア依存度が高くなる自動車において、自動運転ともなるとその制御はさまざまなセンサーからの入力情報を処理し、それらの情報に基づいて車体の挙動が制御されることになる。いかなるソフトウェアも100%の完璧さは保証されるものではなく、ましてや、多種多様なセンサー、速度や移動距離などの走行情報、測位衛星と地図情報の位置情報修正など、複雑な処理を伴う自動運転では、どこで不具合が発生するか予測が困難で、不具合発生時の原因特定も難しい。
自動運転カーは、一方で、コネクテッドカーでもある。走行に従って刻々と変わる車両の周辺環境、ルートマップルート上の渋滞、事故、道路工事の情報など、最新情報を通信し続ける必要がある。そうした状況にあって、フィアット・クライスラーのJeepが携帯電話網を使って遠隔操作できる脆弱性が発見された。搭載されたインフォテイメントシステム「Uconnect」は、盗難防止機能としてGPSで車の所在を追跡したり、遠隔でエンジンを止めたりする機能があるが、この通信機能から侵入し、ロックの施錠・解錠、ワイパーの作動、ブレーキ操作、ステアリング、停止状態から発進させるなどの遠隔操作がデモンストレーションされた。もっとも、侵入経路を発見してから、各種コントロールのコードを解読するために膨大な時間をかけた結果であり、ハッキングを行ったセキュリティ研究者たちの協力によって、フィアット・クライスラー社は既にアップデート版のUconnectを配信している。
自動車の進歩によって機能の多くが電動化、自動化されてきた、パワーウィンドー、キーレスエントリー、キーレスエンジンスタート、そして、最近ではブレーキ、アクセル、ステアリングなどの走行機能まで電子制御されている。
フィアット・クライスラーだけではなく、ゼネラルモータース、BMW、メルセデスベンツの自動車もハッキング対象となっており、これまではスタンドアロンで良かった自動車が、急速にコネクテッドカーになることで、セキュリティ対策も急務となってきている。
自動運転カーは、自動で目的地まで運んでくれるが、つい最近ブラジルで、観光客の夫婦がカーナビ頼りで運転し、スラム地域に迷い込んで襲われる事件があったばかりだ。日本のように安全な地域ばかりではない場所もあることも考慮すべきであろう。
交通事故が激減し、渋滞は大幅に緩和され、目が不自由な人や歩行が困難な人、免許を持たない子供ですら車での移動が可能になる。そんな世の中になるには、まだまだ乗り越えるべき課題は多い。しかし、人件費圧縮のための過酷な労務環境の結果として発生する大型トラックや長距離バスの事故のニュースを聞くたびに(日本国内では大型車両への衝突被害軽減ブレーキ搭載が義務化の方向にあるが)、限定的でも自動運転の早期実現を願うばかりである。
多種類のセンサーを全方位に搭載し、高速な解析処理とセキュリティを両立し、運転者と周辺の安全確保に冗長性を持たせた自動運転カーは、やはりテスラのModel S並みかそれ以上の価格になり、一般庶民には手が届かなくなってしまうような気がする(低価格な大衆モデルも予定されているが、オートパイロット機能の有無は不明)。そうなると、やはりカーシェアが有望だろうか?カーシェアリングの共用車両では、カーナビの案内履歴などもパーソナライズできないので、ますますスマホでの代替(あるいは連携)が重要になってくる。ゴルフバッグやクーラーボックスを積みっぱなしで、動く倉庫のような車の使い方をする時代は終わりなのかもしれない。
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