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自動運転で「所有から利用へ」が本格化?自動運転技術(2/3 ページ)

2015年11月8日に閉幕した東京モーターショーでは、次世代小型モビリティやパーソナルモビリティの試乗もあり、出展各社の取り組みは非常に興味深かった。大手自動車メーカー各社とも、自動車の電動化もまた避けて通れない道として認識されているが、象徴的なところでは、走りを追求したホンダの「CIVIC TYPE R」、ロータリーエンジン搭載のコンセプトモデル「Mazda RX-Vision」など内燃式エンジンによる自動車の魅力も再訴求されている。

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矢野経済研究所 ICTユニット

交通事故の90%は人為的なミスによるもの

 年々、高齢者の運転免許保有者の数は増えており、それに比例するように高齢者による交通事故は増加の傾向にあるが、運転免許保有者数全体に対する交通事故の比率は減少している。これには、シートベルト、エアバッグ、ABS、トラクションコントロールなど、車両装備や安全技術の進展が寄与していると言われている。衝突回避ブレーキ、車線維持、誤発進防止アクセルなど、安全性を高める技術はさらに発展しており、その集大成が自動運転カーと言える。

 交通事故の90%は人為的なミスによるものと言われる。日本では、死亡事故のうち飲酒が原因となったのは6%程度まで低くなっているが、世界全体では、死亡事故の1/3が飲酒運転によるものとなっている。こと米国では、不注意の原因の1/3は運転中の飲食、1/4は運転中のながらケータイメール(スマホ普及でさらに増加中)、女性ドライバーの半数は運転中に化粧したことがあり、それによる事故は45万件にも達する。その他にわき見や居眠りなど、不注意の原因そのものは取り除くことが困難なのかもしれない。自動運転によって、少なくともこうしたヒューマンエラーに起因する事故は減らすことができる。

 自動運転カーが行き交う世の中は、人為ミスに由来する交通事故が激減する素晴らしい世の中ではないか。

 少し見方を変えて、自動車の稼働率を考えてみたい。一般的な会社勤務の世帯では、週末以外には車に乗らないという家庭も多いだろう。少し情報が古いが、国土交通省の2003年の調査によると乗用車の走行距離は年間平均10,000kmであった。乗車時間を大目に見るため、平均速度20km/hで走行すると仮定すると乗車時間は500時間。365日×24時間に対する比率では稼働率5.7%になる。

 違う角度から、自動車保険のチューリッヒ保険が提供する目安では、毎日の通勤・通学と週末の買い物・レジャーに使用して、年間走行距離1万〜1万5000kmと言う事であるから、通勤に往復2時間×5日、週末に3時間×2日のペースで自動車を利用するとすれば、1週間に合計16時間の稼働となる。これは、24時間×7日間=168時間のうちの1割に満たない。商用車は当然ながらこの限りで無いが、生産人口の半数近くが集中する首都圏では、50%の人々の日常の足は公共交通機関である(2008年パーソントリップ調査)。京阪神圏でも平日の鉄道利用率が25%以上(2010年全国都市交通特性調査)となっており、通勤に自動車を使用しない可能性が高いため、おそらく、日本国内の自家用乗用車の保有台数約6000万台(2015年8月時点)は、そのプロダクトライフのほとんどを駐車スペースで過ごしていることになる。

 自動車は、「所有から利用へ」と言うのは、カーシェアリングがスタートした当時から、言われてきたが、ここ数年は特にステーション数と利用可能台数が増えたことで、成長に弾みがついている感がある。弊社の推計では、2015年のカーシェア市場は、202億円と対前年比で131.2%が見込まれている。

 カーシェアでは、車が置かれているステーションが利用者したい人々の近くに存在することが重要な要素で、稼働率を確保するためには人口密集地に設置する必要があるため、時間貸し駐車場や小売店舗の小規模駐車場などを有効活用することで、そのステーション数を拡大してきた。ところが、自動運転カーであれば、車が自分で「通勤」することが可能であるため、待機拠点は郊外にあっても良く、一方通行になりかねないワンウェイの貸し出しも可能になる。カーシェアリングこそ、自動運転カーがふさわしい業態の1つと考えられる。

 所有者が自動車を使わないときにPeer to Peerで借りたい人とをつなぐAnycaやGreenpot、Getaround(米)、TURO(旧RelayRides(米))、easycar(英)などは、新しく急成長しているサービスの1つである。

 自動運転カーが街中を走りまわる社会では、自動車を所有する必要がなくなる。必要に応じて、スマートホンで目的地への到着時間を指定すれば、自動的に所要時間を計算して、その時間に合わせて利用者を迎えにやってくる。自動運転カーもまた、必要に応じて、ドックに戻り燃料の補給や給電を受ける。利用の多いエリアでの待機台数を増やしたり、利用者の行動パターンを蓄積して、毎週火曜日の朝病院に通う人の自宅近くで待機したり、夜、塾が終わるころに学習塾の近くに待機したりもできるだろう。

 自家所有の自動運転カーの場合であっても、例えば、買い物に出かけたショッピングセンターの入り口で、車を降り、車は専用レーンを通って専用駐車スペースに自動で駐車。帰りには、呼び出しに応じて、持ち主の現在地に迎えに来て、自宅の前で降りたら、少し離れた月極め駐車場まで自動で駐車しに行く、など言うことが可能になる。

 しかし一方で、安全性を確保するため、例えば、最高速度30km/hでの走行に限定されるようなことも考えられる(試験運転を繰り返しているGoogleカーだが、遅すぎるという理由で警察に止められたりもしているようだ)。また、前方に障害物があると判断した場合に停止するようプログラムされた自動運転車は、不必要な停止を繰り返す可能性もある(たとえ、それが、路上に落ちた軍手や風に舞うレジ袋であっても)。さらに、車線逸脱を許さない自動運転カーであれば、片側一車線を閉鎖して工事が行われている道路では、迂回ルートを選択するかもしれない。結果として、目的地に到着するのに通常15分の道のりに1時間かかり、時間に余裕のある場合しか使えないというようなこともあり得るだろう。

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