作ったモノを売るときに知っておきたい「法律」の話:何がOK? 何がNG?(3/3 ページ)
個人でモノづくりを楽しんでいる皆さんの中には、「自分の作品を売ってみたい」と考える方もいるはずだ。しかし「売る」となると、何に注意したらいいのか全く分からない……。そんなときに知っておきたい「法律」の基本について、シティライツ法律事務所の水野祐弁護士に伺った。
具体的な対策はどうしたらいいの?
紹介してきたように、現行法では個人と企業に対し、同じ法律が敷かれている。また、法律を学んだとしても、実際は事例ごとの法律解釈に委ねられることになる。
「だからといって、趣味の延長上でモノづくりを楽しんでいる主婦などの個人に対し、いきなり『全て守れ』と迫るのは現実的ではないと考えています。モノづくりのレベルを上げていくのと同時に、少しずつ法律に関するリテラシーも上げていく必要があるでしょう」(水野氏)。
この問題を是正すべく、2015年に総務省主導で「ファブ社会の基盤設計に関する検討会」が行われた。水野氏が委員として参加した同検討会は、個人がモノづくりをする際に注意すべきことをまとめた「ファブ社会に向けての法・社会制度に関する手引き」を作成。法制度を知らない人でも、理解できるよう分かりやすく解説されている。
「過度に法律に詳しくなり、モノづくりが萎縮するのはよくありません。この手引きには、ここに書いてあることがつかめていれば、大きな問題が生じにくい最低限の情報が記載されています。まずはこの手引きを読み、注意すべき点の概略をつかんでみてください」(水野氏)。
意匠権については、登録されているものを特許庁の「J-PlatPat」で検索することができる。また、最近では、工業所有権情報・研修館が「画像意匠公報検索支援ツール」を公開した。画像デザイン(GUI)に限定されているが、J-PlatPatで調査する際に素人にも分かりやすい検索支援ツールとして提供されている。
製造物責任については、まず自らが製造物責任法の対象となり得ることを自覚することが重要だという。また、水野氏は「配布」のみでも責任を負う可能性があるので、「試作として人に配る場合は、『β版』『未完成品』などと明記し、事故を回避するための情報を併せて提供することで、ある程度リスクを回避することができます」と解説する。
ただ、前述した通り、個人のモノづくりにこの法律をそのまま適用するには厳し過ぎるとの見方もあり、議論の余地を多く残している。
水野氏は「モノづくりには、さまざまな製造上のハードルや法律上のハードルがあります。それだけモノづくりは簡単ではないということです。個人でモノづくりをする人たちはこのハードルをしっかり自覚してモノづくりを行いつつ、不要な責任を負わないように、自分で知識をつけていく必要があります。企業の場合は企業が守ってくれますが、個人でモノづくりをする場合、自分で守るほかありません」と話した。
モノづくりの在り方は「自分たちで作る」
「現状は、著作権や意匠権の侵害があったとしても企業や作り手から申告がない限り、特に問題は生じません。しっかりと制度を理解する努力をした上で、万が一、侵害の申請があった場合はすぐに誠実に対応すれば大事には至らないケースが多いでしょう。大きなビジネスとして展開することが予想される場合は、あらかじめ弁理士や弁護士に事前調査を依頼するのも1つの手段です」(水野氏)。
個人でモノを作っている人たちにとって、現行法のくくりの中で、モノを作る・売る・配るという行為は厳しい部分も多いが、まずはどのようなリスクが存在するのか把握することから初めてみてはいかがだろうか。
法律はなかなか変えられない。しかし、総務省の取り組みのように少しずつ見直していこうという動きもある。モノづくりに携わる1人1人が少しずつ理解を深めることで、新しいモノづくりの在り方に近づいていくのかもしれない。
関連記事
- 殺傷能力がある拳銃を作れる3Dプリンタは法的に規制すべきか?
3Dプリンタ製の殺傷能力のある拳銃を所持していた大学職員が銃刀法違反(所持)容疑で逮捕された。一部の報道では、「3Dプリンタを法的に規制すべき」といった意見も見られるが、3Dデータ関連の識者やモノづくりに明るい弁護士はどう考えているのか。3D-GAN理事長の相馬達也氏とシティライツ法律事務所の弁護士の水野祐氏に聞いた。 - 「銃弾が入手できなければ大丈夫」で、本当に不安は取りのぞけるのか?
3Dプリンタ製の殺傷能力のある拳銃を所持していた大学職員が銃刀法違反(所持)容疑で逮捕された。一部の報道では、「3Dプリンタを法的に規制すべき」といった意見も見られるが、3Dデータ関連の識者はどう考えているのか。今回は、ケイズデザインラボ 代表取締役 原雄司氏、いわてデジタルエンジニア育成センター センター長 黒瀬左千夫氏、建設ITジャーナリスト 家入龍太氏、3D-GAN 理事 水野操氏に話をうかがった。 - 3Dプリンタ業界はPC業界の過ちを繰り返してはいけない
無意味な批判や規制ではなく、将来に向けた建設的な話し合いへ――ジャーナリストの林信行氏が“3Dプリンタ銃”事件で浮き上がった、3Dプリンタに関するさまざまな問題や解決案を整理した。3Dプリンタは、かつてPC業界が歩んだ同じ道を歩んでいる!? - そろそろオープンIPについて語ろうか
モノづくり特化型クラウドファンディングサイト「zenmono」から、モノづくりのヒントが満載のトピックスを紹介する「zenmono通信」。今回は、zenmonoのトークイベントの内容をお伝えする。テーマは「企業知財のオープンソース化」。ゲストにはシティライツ法律事務所の弁護士 水野祐氏、エムテドのデザイナー 田子學氏、ニットー 代表取締役の藤沢秀行氏を迎えた。 - 所有権や著作権にしがみつく時代ではなくなる?
モノづくり特化型クラウドファンディングサイト「zenmono」から、モノづくりのヒントが満載のトピックスを紹介する「zenmono通信」。今回は、シティライツ法律事務所の水野祐さんにお話を伺った。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.