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殺傷能力がある拳銃を作れる3Dプリンタは法的に規制すべきか?3Dプリンタ製拳銃で逮捕者

3Dプリンタ製の殺傷能力のある拳銃を所持していた大学職員が銃刀法違反(所持)容疑で逮捕された。一部の報道では、「3Dプリンタを法的に規制すべき」といった意見も見られるが、3Dデータ関連の識者やモノづくりに明るい弁護士はどう考えているのか。3D-GAN理事長の相馬達也氏とシティライツ法律事務所の弁護士の水野祐氏に聞いた。

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 2014年5月8日に、3Dプリンタ製の殺傷能力のある拳銃を所持していたとして、川崎市の大学職員が銃刀法違反(所持)容疑で神奈川県警察に逮捕された(関連記事:3Dプリンタ銃製造は「社会への告発」「Liberator」図面公開の米国人が声明ITmediaニュース)。報道によれば、設計図は米国のWebサイトからダウンロードし、拳銃自体は数万円のパーソナル3Dプリンタで出力したという。

 この事件に関するテレビや新聞などでの報道を受け、今、3Dプリンタという存在に世間の耳目が集まっている。TwitterやFacebookなどのSNSでも、その件をめぐり意見が飛び交っている状況だ。またテレビ番組などに登場するコメンテーターの中には、「3Dプリンタの使用や購入に対して法的な規制をすべき」といった意見をとなえる人も見られる。

 本記事では、今回の“3Dプリンタ銃”騒動に関して、3Dデータ関連の識者とモノづくりにかかわりのある弁護士から得たコメントを紹介する。

「3Dプリンタの法的規制は『全く不要』」――3D-GAN理事長 相馬達也氏


3D-GAN理事長 相馬達也氏

 3Dデータ活用の啓発や教育に取り組む業界団体「3Dデータを活用する会」(3D-GAN)の理事長を務める相馬達也氏は、“3Dプリンタ銃”の報道があってから、テレビやラジオからの取材申し込みがひっきりなしだという。3D-GANの公式Twitterでも、今回の“3Dプリンタ銃”騒動に関して言及するつぶやきが見られる。

 相馬氏は、「3Dプリンタの法的規制」を求める声に対し強く異を唱える。

相馬氏 今回の事件の問題をきちんと把握するためには、「銃の仕組みについて」「加工について」「3Dプリンタについて」など、結構な知識が必要です。これらをある程度知らないと、単に「怖い」=「悪い」にしかなりませんし、実際、「怖い」=「悪い」=「何かしら規制すべき」という展開になっていますね。こういう方は多いです。

 逆に、これらの知識がある程度ある方は、

  • 「別に3Dプリンタじゃなくてもできる」
  • 「3Dプリンタだと、(銃を)撃っている方が危ない」
  • 「そもそも弾薬がない、アメリカとは違う……」
  • 「ウチのマシニングセンタで削ってやろうか?(冗談)」
  • 「道具だから、そりゃ何でも作れるよね」
  • 「(3Dプリンタは)“夢の機械”なのに、銃くらい作れなくてどうする?(冗談)」

 ……という感じで、極めて冷静です。

 要するに「リテラシーの違いが反応の違いに反映される」ということだと思います。また根本的に「銃に関する知識のなさ」はかなり影響していると思います。詳しい人ほど脅威に思わないということはいえます。

 3Dプリンタの法的規制については「全く不要」だと考えます。理由は、こうしたことで3Dプリンタに規制を掛けることは他の加工機(3Dプリンタよりも、より高性能の銃が製造できる)には規制がないこととの論理的整合性を欠きます。また従来の加工機を含めて法的規制するとしても数が多過ぎて、新たに規制を加えるのは現実的ではありません。

 もし取り締まりを行うのであれば、コンテンツの不法アップロードに著作権法違反を適用しているように、銃の3Dデータをアップロードすることを、銃刀法違反のほう助罪に問うのが現実的、かつ有効だと考えられます。

 なお当会では、3Dプリンタでモノづくりを楽しまれている方に向けて3Dプリンタ使用のガイドライン策定を計画しています。これによって、銃刀法や著作権法などへの配慮を簡潔にうたい、正しく3Dプリンタを使っていただくための注意喚起、啓発活動も合わせて行うことで、現実的で実りある利用環境を実現していきたいと考えています。

関連リンク:
3D-GAN

「『素人でも殺傷能力を有する銃を容易に製造できてしまう問題』というのは3Dプリンタ登場以前から存在」――シティライツ法律事務所 水野祐氏

 シティライツ法律事務所に所属する弁護士の水野祐氏は、クリエイティブ系やモノづくり系、IT系企業などの法律相談、契約や戦略のアドバイスなどに応じている。市民工房ネットワークであるFabLab Japanのメンバーでもある。法律の専門家であり、モノづくりについても明るい同氏は、この事件や騒動について、どう考えているのか。

水野氏 銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)は、殺傷能力を有する「銃砲」の所持を禁止しており、殺傷能力についての検証は必要であるものの、本件もそのような能力を有する製造物であるのであれば、逮捕自体は妥当であると考えます。ただし、今回の事件をもって「3Dプリンタは危険」「法制度が追い付いておらず、規制すべき」という論調が見られますが、現状以上のさらなる法規制は慎重に検討する必要があります。

 銃規制に関しては、従来よりいわゆる改造銃など、素人でも比較的容易に殺傷能力を有する銃を製造できてしまうことが問題になってきました。つまり「素人でも殺傷能力を有する銃を容易に製造できてしまう問題」というのは3Dプリンタ登場以前から存在する問題なのです。

 包丁や自動車を例に挙げるまでもなく、あらゆるテクノロジーは使い方次第で、人間にとって天使にも悪魔にもなりえます。これは人類の歴史において、常に生じてきた問題です。3Dプリンタについても、製造業、医療、飲食、デザイン、アートなどの多様な分野において、人間の創造力を刺激するさまざまな可能性が指摘されているところです。

 3Dプリンタというテクノロジーを危険な技術と見なし、現状よりも強い規制を掛けるのか、それとも、包丁や自動車のように危険をはらむが人類にとって有用なものとして最低限の規制のみを掛け活用していくのか、のバランスを見極めなければなりません。

 そして、武器等製造法や銃刀法といった現行法は、殺傷能力のある銃の製造や所持が行われた段階で初めて規制する、というバランスの取り方をしているわけです。3Dプリンタが一般にも普及してくるにつれ「私たちはこのバランスを変更する必要があるのか」「現状のままで足りるのか」という点について慎重に議論を進めなければなりません。

 個人的には、今回の事件についても、現状の銃刀法により検挙に成功したわけで、危険物の製造という観点からの3Dプリンタに関する法制度は「追い付いている」とも評価できるのではないかと考えています。今回の事件のみから、3Dプリンタに関し安易に法規制を行うことは、日本の経済や文化の発展を阻害するおそれがあるでしょう。

関連リンク:
シティライツ法律事務所

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