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「グローバル最適地生産」実現に不可欠な“標準化”と“共通言語”生産管理の世界共通言語「APICS」とは(1)(5/5 ページ)

生産の「グローバル化」が叫ばれてから久しいが、工場進出はできても多くの企業が成果を出すのに苦労している。苦労の要因の1つにコミュニケーションの問題があるが、実は、工場を運営しサプライチェーンを管理する“世界共通言語”が存在する。「APICS」だ。本稿ではAPICSとは何か、またどう活用できるのかということを専門家が解説していく。

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APICSにおける用語と定義

 現在、APICSの知識体系について教育を行うインストラクターの資格を持っている有志にお願いしてAPICSの標準用語集である「APICS Dictionary(第14版)」の日本語訳を進めている。翻訳を進めていくと、そこに込められたAPICSの考え方がより明確に意識できるように感じている。

 それは、1つは「具体的で明快な言葉の定義」で、もう1つは「社会的使命感の明示化」である。例として、「APS(Advanced Planning System)」をどう定義しているかを見てみよう。日本ではこの種の用語集においても技術的で無難な概念の説明に終わっているのが通例である。例えば、JISでの定義は下記のようになっている。

「部品構成表と作業手順を用いてスケジューリングを行い、納期回答をすると共に、設備の使用日程と部品の手配を行う活動」(JIS Z8141-3311)

 実に一般的であるため、これではほとんどの生産計画システムもAPSになってしまいそうにみえる。どこがAPSを他のシステムから際立たせているのかが分からない。一方で、APICS Dictionaryでは下記のようになっている。

「製造及びロジスティクスの計画や解析の技術。短期、中期、及び長期をカバーする。APSでは、有限資源スケジューリング(FCS)、調達、資金計画、市場予測、需要管理、その他のためのシミュレーションや最適化を行うため、高度な数学的アルゴリズムや理論をベースとしたいくつかのコンピュータプログラムを記述する。これらの技術は、リアルタイムな計画とスケジューリング、意思決定、納期回答や納期確約に関する制約範囲やビジネスルールを、同時に考慮しているのが特徴である。APSは通常、複数のシナリオを提示し評価することができるので、マネジメント側はその中の一つを選択して正式なプランとする。APSの5つ構成要素として、受注計画、生産計画、生産スケジューリング、配送計画、そして輸送計画がある」

 違いを認識して頂けたであろうか。

具体的で思想や立場を明確にした言葉の定義

 APICSの用語定義でもう一つ特徴的なことは、具体的で思想や立場を明確にした言葉の定義となっていることである。

 典型的な例として、下記の言葉「Loss to society (社会的損失)」を見てみたい。そもそもこのような言葉自体が辞書に載るということは日本では考え難い。

社会的損失(仮訳):田口玄一によれば、製品の寸法がその目標値と異なる時には必ず社会的損失が発生する。この損失は、目標値からの偏差の2乗で増加する。この概念によると、寸法が許容範囲内であっても目標値と完全に一致していない限り、社会的損失は発生する。例えば、仕様の範囲内だが目標値と完全に一致してはいない部品の組み立て品は、目標値と一致した部品の組立品よりも早く消耗することから社会的損失が起こる可能性があるということである。

 冒頭に田口玄一氏※5)が引用されていること自体がちょっと驚きなのだが、「品質基準を守ることが社会的損失を防ぐのだ」という論理展開は、技術オリエンテッドな日本の品質技術者からは出てこない言い方ではないだろうか。しばしば「精神まで含めた日本的生産管理は米国では理解されない」と言った議論を聞くが、学ぶべきは実はわれわれの方なのかもしれない。

※5)関連記事:「タグチメソッド」生みの親、田口玄一博士の1周忌追悼シンポジウム開催

 さて、今回はAPICSとSCCについて概要を紹介したが、次回以降はそれぞれの資格の詳細な内容をお伝えする。

第2回:「商習慣の違いを乗り越え、サプライチェーンを最適化する“ものさし”


筆者プロフィル

高井英造(たかい えいぞう)

 フレームワークス 特別技術顧問、日本生産性本部 APICS日本代表部 顧問、サプライチェーン戦略フォーラム 日本理事長、東京工業大学 CUMOTサプライチェーン戦略スクール 講師・コースコーディネーター。

 コロンビア大学工学部大学院(経営科学)修了。三菱石油 数理計画部、エネルギー調査部長を経て、静岡大学人文学部経済学科教授、和光大学経済経営学部経営メディア学科教授、多摩大学大学院客員教授などを歴任。元文部科学省科学技術政策研究所科学技術動向研究センター客員研究官。日本オペレーションズ・リサーチ学会フェロー(元副会長)、CSCMP,米国経営工学会(INFORMS)、日本経営工学会、経営情報学会、物流学会など。

 著書に「問題解決のためのオペレーションズ・リサーチ入門(共著)」(日本評論社)などがある。論文は「ロジスティクス高度化へのオペレーションズ・リサーチの役割」科学技術動向No91文科省(2008)など。


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