「H-IIAロケット29号機」公開(後編)――“高度化”で大改造された第2段:H-IIA Ver 2.0(4/4 ページ)
日本の基幹ロケット「H-IIA」が「高度化」と呼ぶ大型アップデートを実施する。“H-IIA Ver 2.0”として諸外国のロケットと渡り合うため、定められた3つの目標と、6つの着目すべき技術について解説する。
高度化で世界のスタートラインへ
高度化の狙いは、静止衛星の打ち上げ能力を向上させ、国際競争力を強化することにある。現在、静止トランスファー軌道(GTO)からの静止化に必要な増速量(ΔV)はアリアン5の1500m/sが事実上の標準となっており、これを前提とした設計の衛星も多い。そこに1800m/sで提案を出してもほぼ「門前払い」で、これはもう「国際競争力」を語る以前の問題だ。
かといって従来のH-IIAでΔVを1500m/sまで下げようとすると、打ち上げ能力が半減してしまい、ほとんどの商業衛星に対応できなくなる。今まではこういう状況だったわけで、高度化により、ようやくスタートラインに立てるようになった、と見ることもできる。
ただし、商業衛星は大型化が進んでおり、高度化H-IIAであっても、ボリュームゾーンを全てカバーできるわけではない。今後、6トン級の大型静止衛星が増えるという予測もある。このクラスになると204型でも対応できず、次世代のH3ロケットを待つしか無い。
ちなみに高度化H-IIAのGTO打ち上げ能力について、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のパンフレット(リンク先PDF)には4.6トンという数字が出ているが、今回搭載する「Telstar 12 VANTAGE」の重量は約4.9トンだ。能力が足りないように見えるが、4.6トンというのは開発の最低目標であり、実際には十分な能力があるという。
ところで今回の打ち上げについて、三菱重工業は受注金額を明らかにしていないが、高度化H-IIAロケットのいわば初号機であるわけで、恐らく、通常よりも値下げしているものと思われる。今後、"通常価格"でコンスタントに受注できるようになるか。本当の勝負はそこからで、まずは29号機の打ち上げ成功で弾みをつけたいところだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「H-IIAロケット29号機」公開(前編)――29号機で何が変わったのか
日本のロケット「H-IIA」が「高度化」と呼ぶ大型アップデートによって、「アリアン5」や「プロトン」など諸外国のロケットに戦いを挑む。アップデート初号機となる29号の機体公開から、国産ロケットの現状を読み解く。 - 「受注生産」から「ライン生産」へ、新ロケット「H3」は商業市場に食い込めるか
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が新型基幹ロケット「H3」の概要を公開した。シミュレーション解析や民生部品の活用などでコスト低減を進め、商業打ち上げ市場に食い込むべく「事業開発ロケット」と位置付けるが、官需からの脱却に成功するかは不透明だ。 - ミッション達成の“ミニはやぶさ”「プロキオン」、エンジン停止をどう乗り切るか
東京大学とJAXAが、「はやぶさ2」とともに打ち上げた超小型探査機「PROCYON」(プロキオン)の運用状況を説明した。予定したミッションの大半はクリアしたが、エンジン停止に見舞われている。その打開策は。 - 東アジア最大の天体望遠鏡を実現する3つの新技術
京都大学 宇宙総合学研究ユニットの特任教授でありユビテック顧問も務める荻野司氏が、東アジア最大となる口径3.8mの光学赤外線望遠鏡の開発プロジェクトについて語った。同望遠鏡の開発には、日本発のさまざまな技術が利用されているという。 - 勤続17年の日米共同開発観測衛星「TRMM」が残した気象予測技術の進化
JAXAは東京都内で2015年4月上旬にミッション終了が予定されている熱帯降雨観測衛星「TRMM(トリム)」についての説明会を開催。宇宙から雨を観測する衛星として初の日米共同で開発されたTRMMは、約17年という当初の計画を上回る長期観測を続けてきた。今日の気象観測に大きな貢献を果たしたTRMMの功績を振り返る。