ZFとTRWの統合が生み出すメガサプライヤとしての真価:クローズアップ・メガサプライヤ(6/6 ページ)
創業100周年を迎えるZFは、TRWの買収によって、ボッシュ、コンチネンタル、デンソーと肩を並べるメガサプライヤとなった。駆動力伝達系と足周りを得意とするZF、操舵システムとシャシー制御を得意とするTRWの統合によってどのような価値を生み出せるのか。自動車ジャーナリストの川端由美氏によるリポートをお届けする。
「アドバンストアーバンビークル」の快適性
最後に、「Advanced Urban Vehicle(アドバンストアーバンビークル)」なるコンセプトカーに試乗した。これは、どこかの発注元から需要があって開発したのではなく、次世代のモビリティとしてZFが提案するものだ。スズキ「スプラッシュ」をベースにしたテスト車が用意されていた。
75度もの操舵角を持つフロントアクスルと、「エレクトリックツイストビーム(eTB)」と呼ばれるトルクベクタリング機能を備えたリヤアクスルを組み合わせている。フロントには、従来のストラット式サスペンションの代わりに、鎌型のホイールキャリヤで接続された2本のコントロールアームを備えており、さらにEPSのギヤの改良によって大きな操舵角の確保が可能になった。
リヤには、左右独立で最高出力40kWを生むモーターとトランスミッションが軽量なアルミ製ケーシングに収められている。左右のモーターに独立してトルクが分配されるので、トルクベクタリング機構の機能を果たす。これにより、フロントアクスルの転舵運動を補完し、運動特性を高めるとともに駐車もしやすくなる。実際に走らせてみると、小回りがきくし、コーナリング時の回頭性も高い。
さらに、スマートパーキングアシストなる機能も加わる。12個の超音波センサーとフロントアクスル付近に組み込まれた2個の赤外線センサー、合計14個のセンサーが駐車スペースを探索し、狭い場所への縦列/並列駐車を行える。このセンサーシステムは、歩行速度での自動走行を行う機能と連携している。
また、中央制御ユニットで情報を処理して、EPSによる舵角やトルクベクタリングによる車輪の駆動といったシステムを起動する。車載のタブレット端末のユーザーインターフェースを介して操作できることに加えて、車両から降りて、スマートウオッチやスマートフォンによる操作で遠隔駐車も可能だ。ZFでは、車輪の回転数を利用して走行距離を測定する方法を最適化することで、場所や経路を正確に決定する能力を高めた。これにより、駐車支援の精度が高まるという。
もう1台は、クラウド型運転支援システム「PreVisionクラウド・アシスト」を搭載したテスト車だ。運転席に座って、まずはハンドリング路を走らせてみる。このとき、車両位置、車速、縦横の加速度などのデータを収集し、クラウドで保存する。これらのデータにGPSを使った地図上の位置情報を加えることで、一度走ったコースを正確に覚えて、最適な走行状態を計算する。2周目以降にアクセル全開のままでカーブに侵入しようとすると、エンジントルクを落として、ブレーキ操作なしに減速し、最適なコーナリングスピードに導く。そのままアクセルを全開にしておくと、クリッピングポイントについた途端に、フルスロットルで加速できるという寸法だ。
もちろん、ドライバーがキックダウンすると、積極的に運転したいと理解して、アシストを解除する。2種のモードのうち、スポーツモードに切り替えると、燃料噴射を抑制するタイミングは遅れるが、回生ブレーキのみで最適な進入速度まで落とす。反対にエコモードでは、コーナー進入の前に早めに減速する。
ZFとTRWの統合により、世界でも随一のメガサプライヤとなった。今回のイベントで見た半自動運転技術のように、既に技術的な相乗効果は見え始めている。今後、新たな体制で研究開発を進め、企業経営の体制も統合されることにより、メガサプライヤとしての真価を発揮できるか見守りたい。
筆者紹介
川端由美(かわばた ゆみ)
自動車ジャーナリスト/環境ジャーナリスト。大学院で工学を修めた後、エンジニアとして就職。その後、自動車雑誌の編集部員を経て、現在はフリーランスの自動車ジャーナリストに。自動車の環境問題と新技術を中心に、技術者、女性、ジャーナリストとしてハイブリッドな目線を生かしたリポートを展開。カー・オブ・ザ・イヤー選考委員の他、国土交通省の独立行政法人評価委員会委員や環境省の有識者委員も務める。
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