タイヤの転がり抵抗を測る日本唯一の“原器”は小平市にあった:タイヤ技術(5/5 ページ)
東京都小平市にあるブリヂストンの中核研究開発拠点「技術センター」には、新たなタイヤを開発するためのさまざまな試験装置が設置されている。同社が報道陣に公開した、タイヤの転がり抵抗を計測する日本唯一の“原器”と呼べるような標準試験機や、時速400kmで走行中のタイヤの接地面を計測できる「アルティメットアイ」などについて紹介しよう。
「アルティメットアイ」は「ブリヂストンだけのオンリーワン技術」
最後に紹介するのが、「ブリヂストンだけのオンリーワン技術」(同社の説明員)というアルティメットアイだ。静止時にタイヤ踏面に掛かる力を計測することはそれほど難しくはない。しかし走行時の場合は、タイヤを高速で転動させながら表面の状態を計測しなければならないため極めて難しくなる。さらに、高速走行時やコーナリング時という条件では計測できないことが当たり前だった。
アルティメットアイは、その“当たり前”を打ち破り、時速400kmまでの高速走行時でもタイヤ踏面に掛かる力を計測できる技術である。もともとは、同社がかつて参戦していたF1レース向けタイヤのために開発していた技術であり、そのことが時速400kmという最高速度が設定された背景になっている。「従来、走行中のタイヤ踏面の状態は、シミュレーションで予測することしかできなかった。アルティメットアイのおかげで、実際にどうなっているのかを確認できるようになった」(同説明員)という。
主な構成要素は4つ。超小型の接地反力センサー(接地圧、横力、前後力の3分力を計測可能)を周方向に1列で9個埋設したドラムと、タイヤの姿勢角を制御できるタイヤスタンド、走行中のタイヤ軸力と接地反力を同時に計測できるホイール6分力計、高速走行時に次々と送られてくるセンサー情報をリアルタイムに処理できるデータ計測処理装置から成る。
アルティメットアイを使って開発されたタイヤの代表例が、BMWの電気自動車「i3」に採用された狭幅タイヤ「ologic EP500」である。「従来のタイヤと全く異なる形状のologic EP500の開発は、アルティメットアイなくして成しえなかった」(同説明員)というほどだ。
もちろん、GR-XIの開発にも適用されており、一世代前の「GR-XT」と比べてウェットブレーキ性能を7%向上するなど、静粛性と併せて操縦安定性を高めるのに役立てられている。また、F1レースからは撤退したものの、モトGPやスーパーGTといったレースカー向けタイヤの開発にも利用されている。
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