「S660」と「コペン」が同じ軽オープンスポーツなのに競合しない理由:クルマから見るデザインの真価(3)(4/4 ページ)
車両デザインを通して、「デザイン」の意味や価値を考えていく本連載。第3回は、話題の軽オープンスポーツカーであるホンダの「S660」とダイハツ工業の「コペン」を取り上げる。同じ軽オープンスポーツカーではあるが、その開発コンセプトやデザインの方向性を見ていくと、実際にはほぼ競合しない可能性が高いことが分かる。
「S660」最大の不安要素はホンダのブランドイメージ?
筆者も仕事でスポーツカービジネスに関わっているので、オーナーの方々を見ていて思うのだが、趣味性の高いスポーツカーには、オーナーも語れるウンチク要素が必要だ。S660にせよコペンにせよ、スーパーカー並にそういった要素をちゃんと盛り込んでいる。後は作り手とユーザーとの関係性だ。
個人的には、最近のホンダに対して「もはやミニバンのメーカーになってしまったのか?」という認識が強かったので、NSXやS660、「シビック TYPE R」といったスポーツ系モデルにも再び力を入れはじめたことはうれしい限りだ。S660が、「軽自動車なのに?」と思うくらいスポーツカーとしての走りの面を追求していることも、楽しく感じられる。それでも、少々気になることがある。
メディア向け発表会のプレゼンテーションでも「S660を長く愛用して欲しい」という言葉は聞かれた。作り手の思いが強く込められてることは、クルマを見てもプレゼンテーションを聴いてもよく分かるし、その言葉が出てくるのも納得できる。しかし、ユーザーが長く愛用する中で、作り手であるメーカーがどう関わるのかということについては、構想レベルの話も出てこなかったのが残念だ。
スポーツカーは、クルマを作るだけでなく、作ったクルマを世の中に送り出した後も継続的にどう育てていくかということが重要だと考える。マツダが、自社の全体の販売台数に対してさほど大きな事業規模ではないロードスターを、同社が苦境にあるときも止めることなく、毎年のように改良の手を加えながらずっと作り続けてきたのは、そういった重要性が組織レベルで認識されているからだろう。
時間の積み重ね分、ファン顧客の厚みがロードスターには付いている。間もなく発売になる新型ロードスターにおいても、早い段階からメディアと同時にユーザーにも情報を出したり、ファンミーティングを開催したりしている姿勢が印象的だ。
またまた個人的ではあるが、ホンダについては、こういった「作った後に育てるということが苦手なブランド」、「すぐに止めちゃうブランド」、というネガティブな印象がある。
もちろんポジティブな意味では、(S660を見ていても感じるが)「新しいことにチャレンジするブランド」というのもある。ただこれが、先に挙げたネガティブな印象とセットになると、「新しいものをつくるときには頑張るけど、その後育てていくより次の新しいことに行ってしまうブランド」というものになってしまう。F1にせよ、スポーツカーにせよ、継続的に続けるのではなくやったりやらなかったりというところからも、そういった印象を持ってしまうわけなのだが。
S660が魅力的なクルマに仕上がっているだけに、ぜひとも作って終わりでなく、継続的に育てていって、ユーザーを置いてきぼりにしないでほしいと願う。余談ではあるが、NSXにはクルマをユーザーから預かり、メーカーで新車レベルにリフレッシュするというプログラムがある。このプログラムが今も続いていることは、ホンダが「すぐに止めちゃう」だけではないということへの1つの期待になるのではと感じている。
Profile
林田浩一(はやしだ こういち)
デザインディレクター/プロダクトデザイナー。自動車メーカーでのデザイナー、コンサルティング会社でのマーケティングコンサルタントなどを経て、2005年よりデザイナーとしてのモノづくり、企業がデザインを使いこなす視点からの商品開発、事業戦略支援、新規事業開発支援などの領域で活動中。ときにはデザイナーだったり、ときはコンサルタントだったり……基本的に黒子。2010年には異能のコンサルティング集団アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。最近は中小企業が受託開発から自社オリジナル商品を自主開発していく、新規事業立上げ支援の業務なども増えている。ウェブサイト/ブログなどでも情報を発信中。
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