自動車業界にもアップルとフォックスコンのような完全水平分業の時代が来る?:クルマから見るデザインの真価(4)(1/5 ページ)
自動車の開発に必要な部品や素材、それらに関する技術開発の動向を見ることができる展示会「人とくるまのテクノジー展」。2015年の同展示会でプロダクトデザイナーの林田浩一氏が感じたのは、メガサプライヤの存在感の大きさだった。今後、メガサプライヤと自動車メーカーの関係はどうなっていくのだろうか。
クルマという製品は、ご存じのように数万点にもおよぶ部品で構成されている。当然ながらカーデザインの仕事には、クルマの部品や素材についての知識や、技術動向に基づくアイデア提案が必要となる。部品や素材、それらに関する技術開発の動向を見ることができる展示会として、自動車技術会が主催する「人とくるまのテクノジー展」が毎年開催されている。今回は、先日開催された「人とくるまのテクノロジー展2015」の展示会場を回りながら目に付いた、デザインに関わる素材であったり技術などを見ていきたい。
メガサプライヤの存在感の大きさと完成車メーカーの役割
近年のクルマづくりにおいて進化・深化が進んでいる動きに、モジュール化がある。製品開発や製造に関わる費用と期間を短縮しながら、商品としてのクルマをエンドユーザーへ送り出すスピード感と車種展開の幅の広がりの両方を狙う。こういった動きの中で、エンドユーザーの目に触れることが少ないけれど、存在感が増してきていることを感じるのがメガサプライヤの存在だ。
自動車業界での開発に関わっている方以外に、どの程度知れ渡っていることなのか分からないなのでざっと流れを見ていこう。かつて、完成車メーカーに部品を納入するサプライヤは、ステアリング、ブレーキ、サスペンションなどといった部品単位での「部品メーカー」だった。その中からクルマの機能ごとに統合し、新しい機能開発と提案をして巨大化していくメガサプライヤが誕生していった。
海外勢は1990年代ごろから積極的なM&Aでメガサプライヤ化してきた。モジュール化やクルマの電子制御の範囲が拡がってきた流れにも連動しているともいえる。日本の自動車産業では、ご存じのようにいわゆるケイレツの結束力でやってきていたが、グローバル展開するメガサプライヤの存在が大きくなるのに従い、現在は完成車メーカーに直接納入するティアワン(Tier1)の国内サプライヤは、必ずしもケイレツのみで事業展開をしている状況ではなくなっている。
こういった動きはごく最近に始まったことではないので、2015年の「人とくるまのテクノロジー展」での突出した話題ではない。しかし会場を眺めると、ここはシートメーカー、ここはメーター屋さん、みたいな単純な会場の景色ではなくなっているし、守備範囲を年々広げているメガサプライヤの存在感も大きくなっている印象だ。例えば、Continental(コンチネンタル)はタイヤのブランドではなく、今やブレーキ、シャシー制御といった走行性能、安全性能、電子制御系まで事業領域をカバーする総合的な技術開発のブランドに変容している。ZFは「オートマチックトランスミッション」のメーカーではなく、SACHSやTRWを傘下に収め、シャシーとパワートレイン全般での開発力・提案力を売りとしている。
メガサプライヤは、幾つもの分野のシステムを作っている。写真はZF傘下になったTRWの事業領域を示すパネル。ここに、パワートレインのZF、ショックアブソーバーのSACHSが加わると、かなりの部分をカバーできることが分かる(クリックで拡大)
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