自動車業界にもアップルとフォックスコンのような完全水平分業の時代が来る?:クルマから見るデザインの真価(4)(2/5 ページ)
自動車の開発に必要な部品や素材、それらに関する技術開発の動向を見ることができる展示会「人とくるまのテクノジー展」。2015年の同展示会でプロダクトデザイナーの林田浩一氏が感じたのは、メガサプライヤの存在感の大きさだった。今後、メガサプライヤと自動車メーカーの関係はどうなっていくのだろうか。
完成車を製造するサプライヤも
さらにメガサプライヤの中には、部品システムの開発・製造のみでなく完成車製造の受託までを範囲としているサプライヤもある。カナダのMagna International(マグナ・インターナショナル)はそういった存在であり、オーストリアにある子会社Magna Styer(マグナ・シュタイヤー)では、BMWグループの「X3」「MINIカントリーマン(日本名:MINIクロスオーバー)」、メルセデス・ベンツ「Gクラス」、プジョー「RCZ」、クライスラー「ボイジャー」などの製造受託の実績を持つ。その製造能力を背景に、General Motors(GM)がオペル/ヴォクゾールの欧州事業部門売却を図った際には、買収の手を挙げ注目されたこともあった。
マグナ・シュタイヤー「MILA Plus」。今回の展示はスケールモデルとパネルという小ぢんまりとしたものだったが、ジュネーブモーターショー2015」では、実物大のコンセプトカーを出展している(クリックで拡大)
マグナは単純に製造をOEM受託しているだけでなく、2005年の「フランクフルトモータショー」以来「MILA(Magna Innovation Lightweight Auto)」と名付けたコンセプトカーを出し開発提案力もアピールしている。今回の人とくるまのテクノロジー展でも、2015年の「ジュネーブモーターショー」で発表された「MILA Plus」をスケールモデルで展示していた(ジュネーブショー出展の実車でなかったのが残念だが)。
このMILA Plus、マグナのプレスリリースによると、アルミニウムの押し出し材を用いたスペースフレームに樹脂外板、プラグインハイブリッドシステムやドアミラー代わりのカメラシステムなどを備えたスポーツカーに仕立てている。自社が持つ技術要素ごとに見せるのではなく、オリジナルデザインのボディーを纏う「MILA Plus」という“ちゃんとした”クルマの形でジュネーブショーに出したのは、サプライヤから完成車メーカーになるという意思表示ではなく、ワンストップで開発から製造までを請け負えるということのメッセージであり、クルマに仕立てた技術とサービスのカタログであることが分かる(プレスリリースでも、アルミニウムボディの製造を請け負ったメルセデスベンツ「SLS AMG」での技術が反映されていることが記されている)。
人とくるまのテクノロジー展でのMILA Plusの展示自体は、実はマグナブースの端で小さく置かれている程度だったけれど、完成車メーカーとメガサプライヤの関係性やそれぞれの役割が変化していく1つの方向性を感じさせるものだった。近い将来には、自動車産業でもアップルとフォックスコンのような関係性でのモノづくりも珍しくなくなるかもしれない。
メガサプライヤの存在感がより大きくなり、アップルとフォックスコンの関係のような製造が分離された水平分業のビジネス構造になってくると、完成車メーカー側には、今まで以上に総合的な企画力が求められる。エンドユーザーにどのような体験(クルマを構成する技術面から、販売・アフターサービスまで)を提供する存在でいようとする意思表示の仕方が、ユーザー側から見た場合の「違い=そのユーザーが選ぶ理由」となる。完成車メーカーは、メガサプライヤの開発力を単なる丸投げできる相手として使うのではなく、自社の企画を具現化させる資源として使いこなすという面が強くなると想像できる。
「Designed by Apple Carifornia Assembled in China」。アップル製品の裏側に小さく記されている文字であるが、クルマづくりにおいても似たようなクレジットを見るようになるのだろうか。
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