なかなかうまくいかぬ、公差設計推進の理想と現実:3D設計推進者の眼(2/2 ページ)
機械メーカーで3次元CAD運用や公差設計/解析を推進する筆者が実際に行った公差設計推進や、そこで直面した問題などについて語る。
公差設計はコストメリットが出にくい?
また、公差とコストの関係にも要因がありました。これは私の現場が一品受注生産だったことが大きな理由でしょうが、最適化を行って公差を甘くしても、部品1点1点の正確な見積もりができず、結局部品コストが変わらなかったため、設計者の正しい公差へのモチベーションが下がってしまいました。社内加工であれば、加工手順や工数を正確に把握しやすかったと思いますが、社外加工の場合、そうはいきませんでした。場合によっては、加工先別に「まとめていくら」といったような見積もり方法もあります。寸法公差や幾何公差を変更した場合、正確に見積もりを行い、正確に比較すれば必ず差は出るはずなのですが……。
一般公差については、別の疑問もありました。一般公差は「JIS B0405」(普通公差−第1部)で、「個々に公差の指示がない長さ寸法及び角度寸法に対する公差」として定められています。最新改正は1991年となっています。加工技術の進歩を考えると、この一般公差の数値はどう考えたらいいでしょう? 幾何公差の数値も同じです。
JISに準じていましたが、加工の実力を考慮した上での自社独自の一般公差テーブルは持っていませんでした。また加工先の一般公差のテーブルがあったかどうかも私は知りませんでした。公差とコストの関係が“ばれて”しまうので、多分、加工現場におけるテーブルは、企業秘密でしょう。また加工会社別にこれを管理するのも簡単ではありません。公差設計を行うには、ここまでやる“せめぎあい”が必要だったと思いますが、これもまた理想と現実といえます。
公差の寄与率を組み立て工程に利用する
もちろんですが、上手くいったこともあります。公差の寄与率がはっきりしたことです。これにより、組み立てを行う製造者は、組み立て時の寸法管理において、公差寄与率の高い部分を重点管理ポイントとすることが可能となりました。例えば、これが購入品であれば、組み立て者は無条件にこれを組み込むのではなく、計測を行い、この寸法管理の下、組み立てを行うことが可能となりました。
構想初期における公差設計
正しい公差を付けることは設計の本質です。しかも公差設計により、ある公差内で誰でも組み立てられる無調整化や、実製品からだけでは見えない公差による模倣対策も可能となることが分かりました。
この公差設計を3D設計プロセスへ上手く組み込むため、詳細設計に入る前に公差設計へ取り組めるかどうか検討することが現在のテーマです。CAEでも、事細かに詳細設計されたものを解析する時に、「なぜもう少し設計が進む前に解析できなかったのだろうか、もっとラフなモデルの状態で解析を行っておけば、その結果ももっと良かったはずなのに」という経験があります。公差設計もそれと同じで、後戻りはしたくありません。
多くの設計者は、いきなり3D CADに向かって詳細設計を始める、完成体の部品を積み上げるといった設計はしないでしょう。紙にスケッチを描く、ラフな3Dモデルを構築して詳細を決めていくのではないでしょうか。その状態で公差設計ができれば、後戻りも少なくなります。
ツールもうまく使う
最近では、構想設計段階での公差設計を支援するツールもあります。一例ですが、「SigmundWorks」(米ヴァラテック製)では構想スケッチの段階で公差設計が行えます。構想段階の試行錯誤の中で1次公差設計ができれば、3D詳細設計において寸法公差・幾何公差を設定しやすくなり、ここで2次公差設計として、レバー比・ガタといった項目を盛り込んだ詳細の公差設計が可能となります。結果、3D設計プロセスに公差設計を組み込むことが、格段とやりやすくなり、また後戻りも少なくなるはずです。
公差設計の意識を高めるために
公差設計の導入で重要なことは「現場でいかにPDCAを回すか」ということです。つまり、公差設計に購買部門、加工部門、外部加工会社をどう巻き込んでいくかがカギということです。意識を高めるためには、社内外教育を行っていくことはとても重要です。“せめぎあい”を行うためには、同じ土俵に上がってもらわなければなりません。
グローバル化の今、同じ2D部品図でも労働賃金の安い海外で製作した方が、当然安くなりますが、日本と海外では出来栄えが異なることがあります。製造不良を除いたとしても、設計要求を満足できないことがあります。これは部品だけではなく、これら部品を組み立てた製品についても同じです。
製品設計での正しい公差設計の上、公差の部品への展開と設計意図を正しく伝える2D部品図面への描き方、加工先の実力の把握や公差とコストの関係、更には組み立てる上での検証や工夫ということを含めて、公差設計ができているのであれば、どこでも同じ品質の製品を製造することができるはずです。
設計部門以外、社内外でPDCAを回すことは容易ではないでしょうが、推進者はこれを避けては進めません。その方法の答えは1つではないでしょう。しかし「公差設計は設計本質」だということを忘れてはなりません。私自身も気持ちを新たに公差設計に取り組んでいきます。
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