オープンソース解析ツール「OpenFOAM」、決してコストだけではないその評価:ベンダーに聞くCAE最新動向(1)(3/3 ページ)
CAEの最新動向を有力ベンダーに聞く短期連載。第1回は、オープンソースの流体解析ツール「OpenFOAM」を使った解析やサポートに10年以上の経験を持つCAEソリューションズに、その現状について聞いた。
MONOist OpenFOAMのメリットを教えてください。
吉野氏 OpenFOAMは本体のライセンスコストがかからない分、HELYXなどサードパーティ製ソフトの利用やCAEソリューションズが提供する各種サポートサービスの費用を含めたとしても、全体として商用ツールを使うよりもコストを抑えられるメリットがあります。そのためOpenFOAMは、より複雑で大規模な解析をできるだけ速く実行して結果を得るために最も効果的な「クラウド型HPCクラスタサービス(例:IBM SoftLayerなど)」の利用と非常に相性が良いのです。
MONOist ではコスト以外のメリットについてもう少し詳しく教えてください。
吉野氏 流体解析は構造解析と違い、まだ未知の部分というか解析の余地があり、メーカーや研究機関では、いろいろな流体モデルについて研究が行われています。当然ながらそうした研究中のものには商用のコードがありません。そうした最先端の研究をアプリケーション化するときに、OpenFOAMをプラットフォームとして利用できます。OpenFOAMには基本的な数式、さまざまな流体解析の小さなアプリケーションやユーティリティ、CAD/CAMインタフェース、メッシングツールなどが部品化されて1つのパッケージになっているので、ソルバー部分の計算コードだけを置き換えればすぐに使えます。例えば新しい乱流モデルを研究開発したとして、OpenFOAMのソルバーにその乱流モデルを組み合わせればちゃんと動くアプリケーションになる。これは実際に研究されている方から見れば非常に使いやすいのです。
企業の中で得られた流体や連続体解析に関するノウハウを、オープンソースのプログラムとして残せることは大きなメリットがあります。商用コードもサブルーチンによってカスタマイズすることはできますが、ソルバー部分はベンダーがクローズしていて見えません。サブルーチンを書いた方は理解していても、その人がいなくなったりすると、再度それをベースに開発しようとしたときは、またスタートからやり直しです。この点OpenFOAMはソルバー部分も含めて中身が全て見えるので、メンテナンス性が良く、流用も容易です。
オープンソースということから、いきおいコスト面に注目しがちだが、OpenFOAMの利用が進んでいる背景には、コストだけではなく、大規模計算での計算効率の良さ、研究開発に使いやすい高いメンテナンス性、アプリケーションの開発しやすさなど、商用ツールに匹敵、あるいは上回る良さが評価されていることがある。日本でのOpenFOAMの利用は欧州企業に比べて遅れているが、今後より一層の利用拡大が進むことは間違いない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 計算機はクラウドの時代へ、セキュリティの進化が後押し
CAE業界において、クラウド化という新たな動きが進みつつある。CAE最新動向を有力ベンダーに聞くシリーズの第2回は、クラウド化の背景やクラウド化の際に生じる課題、先行する欧米の状況などについて、CAEベンダーのヴァイナスに聞いた。 - 解析の大規模化をクラウドやオープンソースで乗り切る
CAEの最新動向を有力ベンダーに聞く短期連載。第3回は、ソフトウェアを提供するITベンダーでありながら、受託解析やコンサルティングも請け負うIDAJに、大規模解析や受託ビジネスについての現状や課題について聞いた。 - 日本製造業に“健全なる危機感”を持つこと
本稿では7月8日に開催した「CAD/CAE活用ミーティング」の入曽精密 斉藤清和社長による基調講演とパネルディスカッションの内容をお届けする。 - いまから出来る! 設計者向けCAE活用の事始め
設計者向けCAEを活用してフロントローディングするためにも教育が大事なのはよく分かった。だけどすぐには無理という人にもひとまずアドバイス - SPICEの内側を探る――節点法とは
電子回路を設計する上で必須となっているSPICE。本連載では、そのSPICEの仕組みと活用法を取り上げる。第1回は、SPICEを使う目的や、数多く存在するSPICEツールの選定基準、SPICEの解析手法である節点法について説明する。