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グローバル企業に求められるKPI管理とは?中堅製造業のためのグローバルERP入門(7)(3/3 ページ)

中堅製造業に効果的なグローバルERPの活用方法と、失敗しない導入方法を解説する本連載。今回は、ERPを導入した後に実際に効果を出すための運営手法として重要なKPI管理について解説します。

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結果から原因へさかのぼる分析

 先述した通り、KPIは自社の活動状況をタイムリーに可視化するための重要な指標です。具体的な例を挙げると、代理店網を構築し、その代理店が自社の製品を販売するようなビジネスモデルの場合、営業部門による代理店の新規獲得数がKPIに設定されるかもしれません。また、品切れや顧客への納期遅れが慢性化しているようなビジネスの場合は、納期の順守率や調達リードタイムといった情報を購買部門のKPIとしてモニタリングしていくケースもあるでしょう。

 事業の状況をタイムリーに測る指標、ということは言い換えれば結果的にP/L(損益計算書)に表れる事業の成果(=主に利益など)を左右する主な原因に当たります。そのため、「売上高」や「原価率」といった会計システムから取得できる会計性の情報よりも、販売管理・在庫管理・生産管理といった上流システムにしか保持されていない非会計性の情報がKPIとして重視されるケースが発生します。

 スクラッチ開発などによって各部門の業務を個別に最適化する形でシステムが導入されている企業では、上流システムが出力したデータから会計に不要な情報をそぎ落としたり、取引先別や製品別などの単位に売上・仕入データを合算したりするなどの加工をした上で会計システムに仕訳データを登録することが一般的です。これでは、システム間でデータが分断され、原取引と会計仕訳とでデータの粒の大きさが異なってきます。

 多くの企業で行われる経営陣への月次報告では、一般的にセグメント別の売上高や利益といった会計性の情報を中心に報告が行われ、その原因となるKPIの達成状況が合わせて報告されます。そのために、原因(KPI)と結果(売上高や利益)を関連付けて因果関係を見たり、それぞれをセグメント別に分解して問題箇所を特定したりするなどの分析が必要になります。しかし、先述したスクラッチ開発の仕組みでこれを実現しようとすると、同時に複数のシステムを立ち上げたり、複雑な加工が必要になったりと、多くの時間と労力が必要になるだけでなく、加工作業のミスの原因にもなります。

 ERPは個別最適の集合体ではなく全体最適を主軸において設計されています。統合化された1つのデータベースの中で原取引(非会計性の情報)と仕訳(会計性の情報)を一対一に関連付けて保持します。この特性から、両者をワンクリックでダイレクトに行き来したり、原取引のシステムが持つセグメント情報や売上個数などの非会計性の情報を会計データにあらかじめ埋め込んでおいたりすることが可能です。先述したような分析作業に掛かる時間と労力の軽減や、データの精度向上に向けて、大きなメリットをもたらしてくれるといえるわけです。

統合データベースによるKPI管理の網羅性

 ERPがKPI管理に大きく貢献できる点をもう一つご紹介します。第3回で紹介したERPの導入効果の1つである「多拠点展開が容易で低コスト短納期による導入が可能」といった点は、KPI管理でも非常に大きなメリットをもたらしてくれます。

 コストの抑制や人員不足を理由に各拠点や各部門の裁量で自由にシステム導入を許してしまっていて各拠点のシステムが統合化されていないケースでは、月単位や週単位などで各拠点に報告を求めても、各システムから出力された情報をさらに加工しなくては整理できません。この一連の作業に、報告する側(拠点)・される側(本社)双方で膨大な時間と労力が必要になり、KPI管理が実務の大きな足かせとなってしまいます。

 各拠点のシステム間では、マスターなどの基礎情報の違い・データの記録単位・タイミングも当然異なり、共通の基準でデータを取得することができず、経営が判断を誤ってしまう危惧もあります。例えば、自社の複数拠点で取引をしているグローバル企業の仕入先を、本社と海外拠点がそれぞれ別々のマスター・コード体系で管理をしていては、仕入価格の高騰、納期遅れの常態化、品質の悪化といった課題がグローバル全体で発生していたとしても気付くのに時間がかかります。そのため、代替仕入先の検討といった施策をタイムリーに実行することができなくなります。

 自社の業務を標準化して導入したERPをテンプレートとして海外拠点に展開すると、製品や取引先などのマスター情報も同一の枠組みの中で統合管理されますし、本社と同様の切り口・粒度・タイミングで海外拠点の取引もデータが蓄積されていきます。共通の枠組みによる管理を本社が拠点に強いることは、現場にとっては負担になることもあるかもしれませんが、グローバル全体でビジネスを展開する企業にとっては、その負担を補っても余りあるほどのメリットが享受できると考えています。

 KPIは自社の健康状態を測る重要な指標ですから、あらゆる拠点や、あらゆる製品・サービスを包括的に管理対象とすることで、はじめて経営者が「健康ではない箇所」を的確に判断できるようになるのです。

まとめ

  • 業績を左右する主な原因となり得る指標をKPIといい、自社の戦略や目標に応じて設定したKPIを重点的に管理/分析することで、タイムリーかつ効果的な対策が可能になります。
  • KPIには会計性の指標だけでなく、販売管理システムや在庫管理システムといった上流システムに蓄積される非会計性の指標が設定されることが一般的です。1つのデータベースで会計性・非会計性の両データを関連付けて管理しているERPは、両者の因果関係の分析やセグメント別の分析などに大きな効果を発揮します。
  • 企業の健康状態を測る検査項目ともいえるKPIは、自社の全拠点の状況を把握できる基盤で管理することが必要で、日本国内外のビジネスに幅広く対応し、データベースを一元的に管理できるERPは、経営者にとって非常に有益な経営管理の基盤となります。

次回は

 次回は、今回ご説明したKPIを実際に設計する際のプロセスや、KPI管理の中で抑えるべきポイントなどをご紹介します。KPIの意味は理解していても、具体的に自社で設計や導入を進めるためのステップが分からない、もしくはKPIは設定されているが今一つ効果が見えない、といった状況を改善する何らかのきっかけになればと思います。

筆者プロフィル

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蒲山雅文(かばやま まさふみ) スカイライト コンサルティング シニアマネジャー

大手SIベンダーにてERPコンサルタントを経験し、スカイライトコンサルティングに入社。大手企業から中小企業まで、幅広い企業に対してコンサルティングを実施。基幹・経営管理領域の全社プロジェクトを得意領域とし、戦略策定・構想立案から全社業務改革、システム導入などの推進・定着化といった一連のフェーズでプロジェクトに従事する。




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