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モデルベースのクルマが、ホントのクルマになりました!モデルベース開発奮戦ちう(9)(3/3 ページ)

豊産自動車や他のサプライヤとともにモデル結合を行って、「バンビーナ」を搭載する「CVT∞」のECUに必要な仕様は固まった。京子たち三立精機の制御設計チームは、再度モデルの修正と検証を進めて、実際の車両を使った実機検証に挑むことになった。

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2回目の実機評価へ

 山田課長は、NGの条件AとBが同じタイミングで発生した場合、それぞれの条件に基づく対策案を確認した上で、これならば考えられる範囲で問題は起こらないだろうと判断した。そして制御開発チーム全員で資料を作成し、豊産自動車の鈴木さんに送付した。

 対策には5日間ほどかかるものの、その間に行う実機評価に大きな影響はないらしく、心配はいらないとのことだった。不幸中の幸いだったけれど、これでひと安心だ。


大島

対策案に問題はなさそうなので、2人とも引き続いてモデルの修正と検証を実施してください。検証の漏れがないように気を引き締めていきましょう。


京子

はい。前のめります!!


五十嵐

はい。前のめります!!


 そして数日後。豊産自動車で、2回目となる実機での車両評価が行われることになった。

山田課長

今回の立ち会いは、勉強になるから京子ちゃんが行ってきなさい。


 山田課長の一声で、今回は私が立ち会うことになった。

 制御モデルを修正し、検証も十分に行った。もちろん自信はあるけれど、現場に立ち会うという緊張もあってかちょっと不安になる。

京子

(今度は、絶対大丈夫なはず!)


 そう自分に言い聞かせながら車両評価を見守った。

 終わるまでの数時間がとてつもなく長く感じたが、一通り終わったようだった。

鈴木

スムーズに終わりましたね。OKでしょう。驚いたことに、従来と比べて評価の回数と期間を半分に削減できていますよ!


 豊産自動車側としても、モデルベース開発によって、開発スピードが格段に上がっているのを実感していることが手に取るように分かった。

これがコンカレント開発なんだ

 私は早速、電話で山田課長に結果を報告した。そして、帰社のため電車に乗っている間モデルベース開発に初めて触れてから今日に至るまでのことを振り返っていた。

  • 初めて耳にする「モデルベース開発」を行うと聞かされ、いろいろと紆余曲折をしながらも、徐々にモデルベース開発が分かり始め、実際の製品開発にも携わることができた
  • これまでの製品開発では、完成した部品を用いたシステムレベルの動作テストは、実機に実装しない限り行えなかったが、モデルベース開発であればその制約に縛られずに済むことが分かった
  • HILS(Hardware in the Loop Simulation)を用いることで、他社が開発しているモジュールなども含めて、全てのハードウェアが完成する前でも、かなりの部分の車両全体の動作シミュレーションを行うことができる。小さな修正とテストの数は増えけれども、短期間で繰り返せるので、大きな手戻りが減り、結果的に自分達の開発スピードが格段に上がっていると確信を持つことができた
  • 量産開発では、自動車メーカーと各サプライヤが、制御モデルやハードウェア回路モデル、機構モデルを共有し、企業間での仕様のすり合わせができるようになる。開発の初期段階から、機構や品質の検証が可能となり、同時並行開発を実現できてしまう
京子

これが、JMAABのカンファレンスでも言っていた、モデルベースによるコンカレント開発なんだ。


 そして、モデルベース開発というものが分かったような気がした私は、周囲の人から気付かれない程度に小さくガッツポーズしていた。

 とはいえ、今回発生した不具合では、たまたま豊産自動車に迷惑を掛けないで済んだけれども、網羅的なモデルの検証が少し不足していたのが原因であったことは大いに反省すべき点だと思う。おそらく今後は、私を含めた制御開発チームのメンバーにとって、技術者としてのスキルや経験がますます重要になるのだろう。さらに、同様な不具合を発生させない手だても考えなければならない。会社に戻ったら早速、施策を考えなければ……。

 私は気を引き締め直していた(以下、次回に続く)。

執筆者プロフィール

JMAAB/今さら聞けないMBD委員会

JMAABのWebサイト http://jmaab.mathworks.jp/

モデルベース開発(MBD)を発展させるべく、自動車メーカーとサプライヤからなる団体『JMAAB』は13年前(2001年)に生まれました。このJMAABの10周年記念において、「MBDを分かりやすく伝えたい」という目的で発足したのが『いまさら聞けないMBD委員会』です。委員会メンバーが所属する10社でMBDを推進してきたエンジニアが協力し、これまでの経験や将来の夢を伝えるべく推敲を重ね、本連載は完成しました。皆さまのモノづくりの一助となれば幸いです。


イラストレーター

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