モデルベースのクルマが、ホントのクルマになりました!:モデルベース開発奮戦ちう(9)(2/3 ページ)
豊産自動車や他のサプライヤとともにモデル結合を行って、「バンビーナ」を搭載する「CVT∞」のECUに必要な仕様は固まった。京子たち三立精機の制御設計チームは、再度モデルの修正と検証を進めて、実際の車両を使った実機検証に挑むことになった。
ホントのクルマは手ごわいぞっ!!
そして数日後、豊産自動車のパワートレイン開発部第一課内の車両実験室(通称シャシー室)で、ついに実機による車両評価が開始されることになった。
今日の立ち会い、すんなり行ってくれればいいんだが。
大島さんの思いとは裏腹に、やはりNGが数箇所発見された。
やっぱり一発OKにはならないよな。
実機を使った試験では、実車両に相当するプラントモデルで表現し切れていない部分に起因する不具合が発見されることがあるからだ。
NGの原因を解析するため、実機の測定機やECUの内部データをモニターしたいので数時間ほど時間をいただきたいのですが。
今からであれば2時間は確保できると思います。どうぞ。
大島さんはきっちり2時間以内で、NG条件でのデータ測定を終えた。
では自社に戻ってこのデータを解析し、対策案を検討します。結果が出ましたら早急に連絡します。ありがとうございました。
豊産自動車から三立精機までは、電車を乗り継いで3時間はかかる。そこで大島さんは電車の中で、結果報告とNGになった条件AとBが同時に発生する場合の状態を簡潔にまとめて、山田課長と制御開発チームのメンバーにメールで送ってくれた。
今回判明した不具合は、実車両相当のプラントモデルで表現しきれなかった部分の対応ができないことが理由かと想定されていた。しかし実際には違っていたようだ。
大島さんが会社に戻るや否や、課長を含めたメンバーに結果を報告。引き続き、測定データと条件を見せながら打ち合わせを始めた。
メールで簡潔に情報は伝えておいたけれども、条件AとBが同じタイミングで発生すると必ず問題が出てしまう。すぐ解析して対策案を検討してくれ。
了解です。メールを受け取ってからすぐに条件とモデルは確認しておいたので、当たりはついてます。
私は、条件Aの場合について、データの解析と対策案を検討します。
じゃあ俺は、条件Bの場合からについて行います。
私と五十嵐さんは翌日中に解析を終了させて対策案もまとめた。
今回の不具合は、実機だけでなくモデルでも発生することが分かった。しかもカバレッジから漏れていたことも判明した。これは完全に当社のミスである。
なぜカバレッジから漏れたのかな?
条件AとBが同時に発生することは想定にありませんでした。このためテスト要件として考慮していなかったからです。
漏れ抜けがあったのは、本当にそれだけかしら?
一応考えられるだけ考えて網羅しているつもりなんですけど、絶対ということは現状ちょっと言えないかも……。でも、モデルベース開発でシミュレーションできる範囲は網羅しているはずです。
確かに、机上では、実際の走行状態を仮説に基づいて想定しているわけだから、何らかの漏れ抜けが起こる可能性も十分あるわよね。つまりシミュレーションだけでの検証には限界があって、やはり実機での評価は絶対必要ということよね。
今回の条件AとBの同時発生なんて、従来手法であれば机上で再現させて不具合を見つけるなんてことは到底できなかったんじゃないかな。
確かに私が入社したころに比べれば、ものすごく高いレベルで検証ができていると思うわ。肝心なことは、想定したことに対して漏れのない設計や検証ができていることなんだから、モデルベース開発のおかげで技術は大幅に進化しているってことね。
そういえば課長っていつごろ入社したんですか?
あなたが中学生のころよ!
五十嵐さんの軽口に対する山田課長の突っ込みも軽やかだ。
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