“本当のウェアラブル”を実現、皮膚のように薄く丸めても壊れないセンサーとは:ウェアラブル(2/2 ページ)
「第44回 インターネプコン ジャパン」内の専門技術セミナーに東京大学大学院 工学系研究科 教授 染谷隆夫氏が登壇。染谷氏が開発した、薄型の有機トランジスタの集積回路を利用して生体情報を計測できるセンサーを使えば、現行のウェアラブル端末のさらなる薄型化などに貢献できるという。
新型ゲルを応用して多点計測をより高精度に
染谷氏の研究グループは、より高精度な生体情報の取得を目指し、開発したフィルム型の有機トランジスタ回路にさらに改良を加えた。生体適合性に優れた素材を利用し、特定の光で成型が行える新型のゲルを開発。高い粘着性と導電性を備えたこの新型ゲルを応用することで、有機トランジスタ回路をより密接に人体に接着することを可能にした。指の関節など、比較的動作が大きくなる部分でも問題なく使用できるという。
また、新型ゲルの生体適合性を生かし、体内組織に付着させることもできるという。染谷氏はラットの心臓に、新型ゲルを応用したひずみセンサーを備える有機トランジスタ回路を貼り付けたところ、約3時間に渡って質の高い心電計測が行えた事例を紹介した。今後、人体への応用に関する研究も進める方針だ。
ウェアラブル機器は多点計測の精度が重要に
染谷氏は、新型ゲルを応用した有機トランジスタ集積回路のメリットについて、センサーと人体との密着度合が高まったことで、複数のセンサーからの情報を統合する多点計測の精度が向上した点を挙げた。同氏は、「近年、ウェアラブル型の心電図計で人の心臓の動きを計測してビッグデータ解析を行うことで、心臓発作などを事前に予測するといったウェアラブル機器やシステムの開発が期待されている」と説明する。
特にこうした病気の予防や健康増進に関連するウェアラブル機器の場合、使用環境として日常生活の中での利用を想定する必要がある。その場合、病院などの医療機関と比較して、機器にとってノイズの多い日常生活の中のような環境でも、高精度に人体から情報を取得できる性能が求められる。染谷氏はこうした背景を踏まえ、「今後のウェアラブル機器においては、微弱な信号を確実にキャッチできる多点計測の精度が重要になるのではないか」と語る。
さらに同氏は、「これまでも多点計測を行うウェアラブル端末は存在していたが、肌の上に小さな箱がついているような、本当に意味でウェアラブルではないものが多かった。日常での利用を想定した場合、装着感が小さくストレスフリーで常に装着したままでいられることが重要。そこで、薄型で装着感がなく高精度な多点計測が可能なセンサーの開発に取り組んだ」と説明する。
染谷氏は今後の研究展開について、「現在開発しているセンサーに利用している材料は、PEN(ポリエチレンナフタレート)などが多い。これらは生体適合性に優れるとは言われるものの、水や酸素は透過しにくい。そこで現在は、人体に張り付けることを考慮して、皮膚科の医師などと共同で蒸れたりかぶれたりしないセンサーの研究開発を進めている。実用化に向けては、こうした人体への影響をクリアすることが重要になると考えている」としている。
関連記事
- 体の動き+脈拍測定でライフログが進化、エプソンの活動量計
セイコーエプソンが発表した腕時計型の活動量計「PULSENSE(パルセンス)」は、歩数や消費カロリーだけでなく、脈拍を測定することができる。それにより、正確な運動強度や睡眠状態を計るといった付加価値を高めているという。 - 着用するだけで心拍が計測できるウェア型トレーニングデータ計測用デバイス
ゴールドウインは、ウェア型のトレーニングデータ計測用デバイスと専用のトランスミッターを発売した。機能素材「hitoe」を活用し、着用するだけで心拍数・心電波形などの生体情報が取得できる。 - 生体情報を計測できる湿布のようなシート型センサー
東京大学大学院工学系研究科の染谷隆夫教授らは、体に貼り付けるだけで生体情報を計測できるシート型センサーの開発に成功した。生体適合性に優れ、粘着性があり、かつ光で特定の形に形成できる新型ゲルを応用した。 - モノに触れるだけで情報が得られる「グローブ型ウェアラブルデバイス」――富士通研
富士通研究所は、保守・点検作業をタッチとジェスチャーで支援する「グローブ型ウェアラブルデバイス」を開発。NFCタグ検知機能と作業姿勢によらないジェスチャー入力機能により、端末操作をすることなく自然な動作だけで、ICTを活用した作業支援、結果入力などが行える。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.