新たなサプライチェーン管理に必要な“分散と集中“、カギを握るのは“利益視点”:損益を加えた$CMに進化するSCM(3)(3/3 ページ)
「製造現場において損益の“見える化”を実現する価値」について紹介する本連載。第1回は組み立て加工業、第2回はプロセス産業の事例を紹介してきましたが、最終回となる今回は、あらためてこれらの事例の中で見えた特徴を整理します。
S&OPはしゃくし定規なものではない
第1回、第2回で紹介してきた事例は、S&OPの定義からするとやや限定的な取り組みとして見えるかもしれません。そもそも値引きやリベートなどのイレギュラー要素などを細かく計画に織り込んだとしても、計画の妥当性や意思決定に与える影響はさほど大きくないことがほとんどです。つまり定義通りのやり方を行わなくても、さまざまな改善が実現できるのです。紹介した事例はSCMの発展的な取り組みともいえますし、S&OPの部分的な取り組みということもできます。
価格下落や、サプライチェーン環境の激しい変化を考えると、SCMに管理会計的な観点で金額要素を加え、できることから徐々に改善を始めていくことが従来以上に重要になっています。冒頭で組み立て産業とプロセス産業で「全体の同期化を図る」という点においては同じ方向に向かっているということを述べました。ただ、組み立て系、プロセス系といった違いに加え、BtoB、BtoCといった顧客や取引の関係によっても何を重視し意思決定していくのかは異なってきます。
図3は「特性により何を重視するか」を端的にまとめた例です。自社の特性に合わせてSCMの改革を進めることが重要です。
グローバル需給調整組織の一元管理による最適化の問題点
これまでのSCMによる低コスト化、効率化への取り組みを進めてきた結果、多くの製造業は安い人件費とスケールメリットを生かした集中化を実現してきました。生産拠点、物流拠点の統合はこれまで多く取り組まれてきた施策です。また物理的な集中化に加え、それを管理するための組織の集中化も行ってきました。いわゆる「グローバル需給調整組織の一元管理による最適化」です。この言葉は、今でもSCMの取り組みを行う中でよく触れられるキーワードです。しかしこういったサプライチェーン構造ではさまざまな問題点が見えてきています。
まず第一に、グローバルレベルで集中生産を行う場合、輸送に伴うリードタイムが長くなるという問題を抱えます。生産がいかに早くモノを作っても、例えば中国からUS圏に船で輸送する場合は4〜5週間のリードタイムが必要となります。生産の効率化は進んでも、輸送に伴うコスト増、また輸送リードタイムが長くなることによる需要変化への柔軟性の低下、販売拠点側の製品在庫増などの問題を招くわけです。
第二に、サプライチェーンに関わるリスクの増加が起こります。震災時の供給リスク、中国の人件費高騰リスク、政治的リスクなど、集中化によるコスト効率化はリスク対応力を犠牲にしている側面があります。
第三に組織上の問題です。グローバルでの需給調整組織による集中管理は相当のスキルを持ったリソースが必要になります。ただし、そういうリソースは限られているため、常にリソース不足に陥りがちです。またグローバルにおいては時差の問題もあり、各拠点と調整、合意形成を行うには時間的な制約も生まれます。
サプライチェーンのさらなる高度化
一方でサプライチェーンを取り巻く環境、技術はさらに進化、変化してきています。
ASEAN経済共同体(AEC)における域内の物流・貿易障壁の低下が進む東南アジア地域は、需要拠点・生産拠点としてこれまで以上にグローバルサプライチェーンの重要なポジションを占めつつあります。また米Appleなど、米国製造業は米国に生産を戻すいわゆる“リショアリング”が活発化しています。さらに日本企業でも円安定着により、国内製造回帰の動きが出てきています。海外生産のリスクと品質管理コストなどを見極め、域内需要を正しく読むことで、柔軟に、迅速に対応しようとする動きは今後も加速すると思われます。
加えて3Dプリンタ、M2M(Machine to Machine)、IoT(Internet of Things)、ウェアラブルコンピュータ、組み立てラインの自動化技術など、製造に関わる技術の進展に伴い、設備管理、製造工程の効率化がさらに進みます。こうなってくると従来の製造業のボトルネックとなっていた人件費の問題は、もう問題ではなくなってきます。
こうした視点を加えて、サプライチェーンの構造を見直すと、一元集中的なサプライチェーンから、より多元的で、ネットワーク的な姿へと変化していくように見えます(図4)。それに伴い、サプライチェーンプロセスを運営する組織の在り方も当然変化していきます。これまでの一元集中組織管理から、「リージョナル管理組織+グローバル管理組織」による集中と分散組織の2元管理体制が必要になってくるはずです(図5)。
サプライチェーンと組織の分散化が進むと、SCM以前の問題として存在した「個別最適・部分最適」の状態に逆戻りするリスクがあります。このような変化に対応しつつ、さらに企業としての価値を高めるためには、全体共通での目的指標と管理指標が必要になります。つまり企業目的の原点に沿った「利益視点での管理」により個別最適ではなく自律分散と集中統制によるサプライチェーン管理プロセスを構築していくことがポイントになっているのです(図6)。
「S&OP」を体系的に学ぶには:S&OPコーナーへ
「Sales & Operations Planning」コーナーでは、「S&OP」の基礎から事例情報など、導入の各段階で役立つ解説記事を紹介しています。「なぜ今S&OPが求められているのか!? 」の問いに応える数々の記事を、併せてご覧ください。
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