新たなサプライチェーン管理に必要な“分散と集中“、カギを握るのは“利益視点”:損益を加えた$CMに進化するSCM(3)(2/3 ページ)
「製造現場において損益の“見える化”を実現する価値」について紹介する本連載。第1回は組み立て加工業、第2回はプロセス産業の事例を紹介してきましたが、最終回となる今回は、あらためてこれらの事例の中で見えた特徴を整理します。
S&OPの普及状況
「金額要素を加味した計画」というと「S&OP(Sales & Operations Planning)」を連想する人もいるかもしれません。ここであらためてS&OPの定義を振り返りたいと思います。サプライチェーンのプロセス参照モデル「SCOR」※)などで述べられているS&OPの定義と特徴を単純に記述すると以下のようになります(関連記事:経営と現場の情報は「超」シンプルにつなぐべし)。
※)SCORはSupply-Chain Operations Reference-modelの略称。米サプライチェーンカウンシルが開発している。
- 販売・マーケティング、開発・製造・調達に関わる計画を統合する
- 上記事業に関わる計画と財務計画とを統合する
- 中長期的な数年先(最低18カ月以上)の計画を行う
- 事業計画と詳細計画を統合し、連携を行う
- 経営層が参画する
S&OPという言葉は、1980年台後半から欧米で提唱されていますが、MRP(Materials Requirements Planning)やERP(Enterprise Resource Planning)、SCM(Supply Chain Management)などのシステムと比べると、日本においてはあまり浸透しているとはいえません。S&OPが日本において浸透していない理由としては「S&OPの実態がよく分からない」「日本のこれまでの改善アプローチに合わない」という点が考えられます。
S&OPの実態がよく分からない
先述したS&OPの定義と特徴を見ると、コンセプトとしての理解は可能ですが、いざ実践しようとするとその実現方法が見当もつかない状況ではないでしょうか。その中でも特に「財務との一致」という点が大きな問題になります。
日々の販売、生産活動で発生する値引きやリベート、返品やリワーク、廃棄などの活動は結果としての実績が記録され、財務的な記録として残ります。人件費や固定費などモノと直接リンクしない要素も財務的には必要な要素となります。しかし組み立て産業においては、これらの財務的な要素を販売計画や生産計画に組み込んでいることは少ないです。一方でプロセス産業においては、金額を中心とした計画を行うものの、限られた設備制約の中でプロダクトミックスの最適化を図るという視点で行うものとなっており、財務計画と一致させるとなると、そこに当てはまらない考慮すべき要素が多く出てきます。
これらのイレギュラーな要素や間接的な活動の要素を組み入れ、それを財務数値と統合させるとなると、非常に困難なものに思えてしまうわけです。特にS&OPは、中長期の計画を立案の主目的としているため、考慮しなければならない要素の数も膨大になってきます。そのため実現までの道筋が見えない状況になるのです。
日本のこれまでの改善アプローチに合わない
日本企業の多くは現場の改善意識が強く、日々の現場改善活動を通じながら、より効率的にサプライチェーンを回す努力を続けています。その「現場力」を最大の強みとしているため、生販計画、需給調整プロセスをボトムアップ的に現場主導で発展させてきた経緯があります。
一方で欧米企業は経営層の視点からトップダウン的に改善プロセスを展開させる傾向があります。従って既に現場主導で、生販計画、需給調整プロセスを行っている日本企業から見ると、S&OPで訴えているものと、従来実施しているプロセスと何が異なるのかが非常に曖昧に見えるわけです。
また前述の財務的な側面と、経営層が主体となる部分については、生販計画、需給調整プロセスとは別の長期的な予算編成に関わる“別のもの”として捉えられるケースもあります。こういったことから日本においてS&OPはバズワード(明確な合意や定義はない流行語)の1つとして認識されてきた面があります。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.