失敗しないERP導入プロジェクトの進め方(選定編):中堅製造業のためのグローバルERP入門(5)(3/3 ページ)
中堅製造業に効果的なグローバルERPの活用方法と、失敗しない導入方法を解説する本連載。前回から3回にわたり、ERP導入を成功に導くための重要なポイントについて、プロジェクトのステップごとに解説しています。今回は、ERP製品と導入ベンダーの選定について説明します。
RFPの配布と提案内容の評価
ERPを提示する導入ベンダーが決まったら、各ベンダーにRFPを配布します。導入ベンダーには、2週間から1カ月程度の期間で提案書を作成・提出してもらい、各社の提案内容を評価します。
評価の進め方
提案内容の評価では「提案書による書類での評価」と「製品デモやプレゼンテーションによる評価」の2段階に分けて実施するのが一般的です。評価の最終段階では、製品デモやプレゼンテーションを通じての評価が必須ですが、候補のERP製品全てに対して製品デモの機会を設定するのは、スケジュール的にも評価者の負荷的にも困難です。従って、一次選定として提案書の内容で2-3社に絞り込み、残ったベンダーに対して製品デモやプレゼンテーションを実施して、より深く製品の機能やベンダーの力量を評価するような進め方が理想的です。
選定時のポイント
提案内容を評価する際には「見積金額」だけで判断せずに、システム要件に対する「適合度」や導入に携わるメンバーの「経験や知識」、会社としての「提案力」なども含めて総合的に判定します(図3)。
特に、導入ベンダー側のプロジェクトマネジャー(PM)の力量は、プロジェクトの成否に大きな影響を与えます。PMの評価で着目すべきは、これまでのプロジェクト経歴です。導入するERP製品でのプロジェクト経験が豊富にあるか、類似の業種や業務領域での経験を有しているか、などの項目をチェックします。また、単に経験や知識を有しているだけでなく、多くのメンバーを巻き込んでプロジェクトを推進するためのリーダーシップやコミュニケーション能力が求められます。PMとは必ず面談を行い、安心して任せられる人かどうかを見極めましょう。製品の機能や提案内容は素晴らしいが、PMのレベルが要求水準に達していない場合は、ベンダー側にPMの変更を要求することもあります。
製品デモやプレゼンテーションには、ユーザー部門にも参加してもらうことも有効です。選定段階から携わることで当事者意識を持ってもらい、導入開始後も主体的に活動してもらうことが期待できます。このとき注意が必要なのは、ユーザーの立場では画面がきれいだったり、営業のトークが上手だったりと、表面的な印象で評価をしてしまうことが往々にしてあります。それらも評価項目の1つではあるのですが、前述したように総合的な視点で評価することが重要であり、その場の印象だけに流されないようにしましょう。
ERP導入は、自社の事業活動において重要な役割を担う基幹システムの構築ですので、この重大プロジェクトを安心して任せられる会社・人材を選定する必要があります。ここで誤った選択をするとかなり高い確率でプロジェクトが失敗しますので、他社との比較をせずに現行ベンダーにお願いしたり、知り合いから紹介されたベンダーを採用したりするなど、安易に選定することは避けるべきです。選定作業には十分な期間を確保し、自社の要求に合致するERP製品と十分な力量を持つ導入ベンダーを選定しましょう。
まとめ
- ERPの導入では、ERPが標準で保有する機能を最大限に活用してアドオン開発を抑制することが、プロジェクトを成功させる上で非常に重要です。そのため、自社の要求に合うERP製品を選定すること、実行力のある優秀な導入ベンダーを選定することが選定段階における重要なタスクになります。
- 選定を行う際には、自社の要求事項を取り纏めた提案依頼書(RFP)を作成し、候補ベンダーに提示します。RFPの作成では、アドオン開発をしてでも実現したい重要な要件を明確にして、優先度を設定することが求められます。
- 選定段階では、製品の見た目や見積金額だけで判断するのではなく、あらかじめ評価項目を決めておき、総合的に評価することが重要です。また、ベンダー側のプロジェクトマネジャーの力量はプロジェクトの成否に大きく影響するので、必ず実際に会って安心して任せられる人であることを確認しましょう。
次回は?
次回は、実際の導入工程について説明します。ERP導入では、自社の要求通りにシステムが構築されるわけではないので、業務のやり方が大きく変わる部分が多く発生します。そのため、ユーザーを巻き込んで業務的な検証に時間をかける必要があるなど、パッケージ導入ならではの重要なポイントが存在しますので、それらの内容について解説します。
(次回に続く)
筆者プロフィル
阿部武史(あべ たけし) スカイライト コンサルティング シニアマネジャー
大手製造業企業で社内SE、大手SIベンダーでERPコンサルタントを経験し、スカイライトコンサルティングに入社。大手企業からベンチャーまで、幅広い会社に対してのコンサルティングを実施。経営管理領域を中心に、IT戦略立案から全社的な経営改革、業績管理制度の構築、業務改革、システム導入、新規事業の立ち上げなどのプロジェクトに携わる。中小企業診断士。
海外の現地法人は? アジアの市場の動向は?:「海外生産」コーナー
独立系中堅・中小企業の海外展開が進んでいます。「海外生産」コーナーでは、東アジア、ASEANを中心に、市場動向や商習慣、政治、風習などを、現地レポートで紹介しています。併せてご覧ください。
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