シートベルトはドライバーに何とか着用してもらうために進化した:いまさら聞けない 電装部品入門(16)(5/5 ページ)
自動車の安全システムとして長い歴史を持っているのがシートベルトだ。現在は、装着するのが当たり前になっているが、ここまで来るのにさまざまないきさつやシステムの進化があった。また、衝突事故時に乗員を座席に固定するプリテンショナーをはじめ、今でも進化を続けているシステムでもある。
内蔵モーターでドライバーに注意喚起するシートベルトも
火薬で作動させるプリテンショナー以外に、リトラクター内部にモーターを内蔵しているケースも最近ではよく見掛けるようになりました。
これは、居眠りしているのではないかと判断できる場合や、運転支援システムが追突の危険性がある場合などにドライバーへの注意喚起を行う場合に、シートベルトを数回軽く引き込んでドライバーに危険を伝達します。
さらに、運転支援システムが自動ブレーキを行う必要があると判断した場合などには、モーターの力で限界までシートベルトを引き込み、プリテンショナーに近い作動を行うものもあります。
それでも実際に衝突してしまい、その衝撃力が一定以上を超えるとプリテンショナーが作動するという流れです。
どれだけ技術が進歩しても、自動車の運転について最終的に全ての責任を負うのはドライバーです。運転しているのは人間ですから、判断ミスや操作ミスを完全にゼロにすることはできません。
それを踏まえて、機械側で少しでも事故を未然に防止できればという思いでさまざまな技術が開発されています。しかしそういった安全技術が進歩するに従って、何か不自然な考え方が出てくるようになったのも事実です。
本来はドライバーに全ての責任があるはずなのに、「自動ブレーキが作動しなかったから事故をした、作動したのに事故になった」といった訴えを行う人が実際に現れ始めています。
自動車メーカー側としては当然想定内の訴えだと思われますが、「根本的な事を忘れていませんか?」と私は感じてしまいます。
自動ブレーキが論点になるということは、既に衝突事故が起こるような状況になっているわけですよね。それは自動車メーカーの責任ではなく、ドライバーの責任です。
そういった場面においても、「少しでも事故を防止したい」「事故被害を軽減させたい」という目的のために開発されている技術に対して、「正しく作動しなかったから事故をした」といった観点で物を申すというのはいかがなものかと思うのです。
これからも続々と安全技術が世の中に出てくると思いますが、その前に事故を起こさない運転を継続することが何よりも大切だという事を自覚し、「万が一の時にそういった安全技術がカバーしてくれたらラッキーだ」という認識をしっかりと持っておきましょう。
次回はメーターについてお話しする予定です。お楽しみに!
筆者プロフィール
カーライフプロデューサー テル
1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成、完成検査員(テストドライバー)、スポーツカーのスペシャル整備チーフメカニックを経て、現在は難問修理や車両検証、技術伝承などに特化した業務に就いている。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にしたメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により、自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。
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