シートベルトはドライバーに何とか着用してもらうために進化した:いまさら聞けない 電装部品入門(16)(4/5 ページ)
自動車の安全システムとして長い歴史を持っているのがシートベルトだ。現在は、装着するのが当たり前になっているが、ここまで来るのにさまざまないきさつやシステムの進化があった。また、衝突事故時に乗員を座席に固定するプリテンショナーをはじめ、今でも進化を続けているシステムでもある。
衝突時にシートベルトを巻きとるプリテンショナー
先述したように、シートベルトを装着している場合、正面衝突時などに上半身が前方へ倒れすぎないよう緊急ロック式巻き取り装置(ELR)が働きます。
しかしシートベルトのゆるみの分だけ上半身は前方へ倒れるので、ELRが作動しても上半身の移動量に比例して胸に受ける衝撃が大きくなります。その移動量によっては、必要以上にエアバッグと顔面が接触することもありますし、サイドガラスとの接触なども起こりえます。
本来、乗員の拘束は、衝突直後に上半身が前方へ倒れる前段階で行われるべきであり、衝突が起こった時点で上半身がシートに密着している状態が理想的です。
そこで、衝突を検知した時点で強制的にシートベルトを巻きとり、上半身をシートに密着させる目的で設置されているのがシートベルトプリテンショナーと呼ばれる機構です。これによって、衝突時の上半身の移動量を少しでも抑制することができます。
プリテンショナーによって上半身の移動量が抑制されたとしても、実際に衝突による慣性力がシートベルトと上半身に加わるとかなりの負荷になります。場合によっては鎖骨や胸骨の骨折に至る場合もあります。
そこで、一定以上の荷重がシートベルトに加わる場合、その荷重を和らげるためにベルトを必要な分だけ排出する機能も併せ持っています。これを、フォースリミッター(ロードリミッターとも)機構と言います。
プリテンショナーとフォースリミッター、上半身の移動量を分かりやすく図解している画像がありますので、参考までにご覧ください。
プリテンショナーも、エアバッグと同様に、衝突した瞬間に目的を達成する必要がありますので、一般的には火薬を用いた爆発力を活用します。
火薬の爆発によって発生するガス圧でボールを飛ばし、シートベルトを巻き取っているリトラクター内部にあるスプールを強制的に回転させて巻き取るタイプと、ガス圧でピストンを押し、ピストンの移動によってワイヤーでアンカーを引いて巻き取るタイプとに分かれます。
なお、プリテンショナーはエアバッグと同時に作動することが大半ではありますが、プリテンショナーで上半身を拘束するだけで必要十分な安全確保が行えると判断された場合には、エアバッグが展開しないこともあります。
他にも、運転席がシートベルト着用で助手席は非着用の場合、運転席はプリテンショナーのみで必要十分、助手席は上半身の拘束ができなくて危険と判断しエアバッグを展開するという片側展開のパターンもあります。
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