好況に沸く工作機械メーカーは盤石か!? 課題は営業力にあり:再生請負人が見る製造業(5)(3/3 ページ)
企業再生請負人が製造業の各産業について、業界構造的な問題点と今後の指針を解説する本連載。今回はリーマンショック前の勢いを取り戻しつつある日系工作機械メーカーの動向と課題について取り上げる。
受注確度の増加−顧客ニーズの吸い上げ
先述した通り、顧客ニーズとのすり合わせは工作機械営業の重要な要素の1つである。顧客のニーズを「正しく」捉え、かつ「正しく」「素早く」応えることが求められている。しかし営業担当が顧客ニーズを正しく捉えられず、特にその重要度や真意を理解できずにせっかくの引き合いを受注に結び付けられないケースも現実には多い。
複雑化する顧客ニーズを的確に吸い上げ、かつ自社の強みを全面に押し出すためには営業担当だけではどうしてもカバーし切れない範囲にまで内容が及ぶ。その際、本社技術部門など然るべき部門の適格なサポートがあれば、受注確度は各段に上がるはずだ。特にRFP(提案依頼書)が発生するような大型案件の場合、早いタイミングで顧客ニーズを吸い上げ、そのニーズを自社にとって優位な形となるように有識者を加えた戦略チームを組成し、顧客対応にあたることが重要になる。
アリックスパートナーズが参加した過去プロジェクトで実際にあったことだが、旋盤の引き合いにおいて競合メーカーがリニアガイドを全面に押し出したアピールをしていたところ、本社技術部と営業担当とがタッグを組んだ戦略チームがリニアガイドのデメリットである経年劣化などの点を説明。顧客企業の入札条件からリニアガイドを削除させることにより、競合メーカーの競争優位性を減らし、最終的に案件を勝ち取ったという事例がある。この時も当初は営業担当と営業マネジャーのみで対応していたが、競合との差別化を図れず行き詰っていたところ、戦略チームを立ち上げるや否や、わずか3日でリニアガイドという着眼点が見つかり、逆転につながったのである。
受注確度の増加−営業活動管理の徹底
受注確度の増加に向けた最大の取り組みは営業活動管理の徹底である。まさに収益増加に向けた活動の集大成といえるこの取り組みは「営業活動の効率化」で述べた、個々の顧客に個々の営業担当がいつ、どのような営業活動を実施するかを定めた後、それを着実に推し進めることを目的としている。
そのためには可能な限り短いサイクルで営業担当の活動内容を把握し、営業マネジャーは適切なフィードバックをタイムリーに提供することが必要条件となる。アリックスパートナーズが参加したプロジェクトでは、毎週月曜朝に営業マネジャーが各営業担当の行動予定をチェックし、必要に応じた修正を実施。その後毎日、各営業担当と個別に10分の電話会議を行い「予定とのズレ」「課題」「リカバリ策」についての設定を行った。一見過剰にも見えるこの管理方法だが、常に課題をタイムリーに把握し、素早く対応策を打つことで「課題」を「問題」にしないためには、必要かつ有効な手段であったと考えている。
営業活動にとって重要なのは過去の振り返りではなく「未来にどのように売り上げを立てるか」ということだ。営業活動管理も常にその視点で未来志向となっていなければならない。素早く短サイクルでの管理こそが未来志向の営業管理といえよう。
終わりに
以上に述べてきたように工作機械メーカーにとって、その収益に最大のインパクトを与えるのは景気動向であり、その波に抵抗することは容易ではない。また大多数の工作機械メーカーは規模の比較的小さい、いわゆる中小企業であり、事業の多様化や財務体質のみで景気の波を乗り切ることも非常に難しい。その中で、工作機械メーカーに残された手段は自助努力で収益の維持・改善を図る取り組みだ。それこそがまさに本稿で述べてきた営業活動に掛かる取り組みであるといえる。従来型の景気動向をベースとした受け身の営業活動から、積極的に仕掛ける攻めの営業へとその体制をシフトしたメーカーこそが景気の波を乗り越え、かつ波に乗りさらなる成長を遂げることができる企業になると筆者は考えている(次回に続く)。
筆者プロフィル
長岡健三(ながおか けんぞう)アリックスパートナーズ ディレクター
経営共創基盤などをはじめとした16年以上にわたる経営コンサルティング経験を持つ他、老舗機械メーカーのCOOや中国事業トップを務めるなど、豊富な実務経験を持つ。アリックスパートナーズ入社後は東京オペレーションの立ち上げにも貢献した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 開く世界基準との収益性の差、日系化学メーカーが未来を切り開くのに必要なこと
企業再生請負人が製造業の各産業について、業界構造的な問題点と今後の指針を解説する本連載。今回はグローバル競争が過熱する日系化学メーカーの現状と抱える問題点について解説する。 - 「アップル、サムスン以外はみんな危機」再生請負人が見た民生電機
アリックスパートナーズは、民生用電子機器市場に関する調査結果を発表し、同業界の56%の企業が財務上危機的な状況にあり、業界全体が危機を迎えているという見通しを示した。 - 韓国企業の4分の1が破綻寸前、日本は“生ける屍”が懸念――破綻予測調査
アリックスパートナーズは、独自の企業破綻予測モデルに基づく日本や韓国市場における調査内容を発表した。韓国企業は上場企業の26%が破綻危機とされるなど、危機的な経済状況となっていることが明らかになった一方、日本企業に対しては“生ける屍”問題が懸念されるという。 - スマホで負けたのは“握手しながら殴り合えなかった”からだ
NECがスマートフォン事業から撤退を発表し、パナソニックも個人向けのスマートフォン事業休止を宣言した。“ガラパゴス”環境で春を謳歌した国内スマートフォン端末メーカーが相次いで苦境に立たされた理由はどこにあったのか。京セラや外資系端末メーカーなど携帯電話関連業界に身を置いてきた筆者が、経緯を振り返りながら問題点を分析する。