製造業は「価値」を提供するが、それが「モノ」である必要はない:製造業がサービス業となる日(3/3 ページ)
製造業が生産する製品を販売するのでなく、サービスとして提供する――。そんな新たなビジネスモデルが注目を集めている。サービタイゼーション(Servitization、サービス化)と呼ばれるこの動きが広がる中、製造業は本当にサービス業に近くなっていくのか。インタビューを通じて“製造業のサービス化”の利点や問題点を洗い出す。本稿では、サービタイゼーションを研究するペンシルバニア大学 教授モリス・コーヘン氏のインタビューをお伝えする。
サービタイゼーションのネガティブな側面
―― 製造業がサービタイゼーションを導入する時に具体的にはどのようにすればいいのでしょうか。
コーへン氏 まずいくつかの点について精査する必要がある。サービタイゼーションをいつ、どこでどのように導入すべきかということだ。またそれによってビジネスインパクトがどれだけあるのか。またどういう要因によって何が起きるのか。現在のサービタイゼーションの進行状況がどういうものか、など、考えるべき点は非常に多い。
具体的には、新たにモノ売りモデルからサービスモデルへの切り替えを図る場合にユーザー企業との契約をどうするのか、どのように結ぶべきなのか、ということは大きなステップとなるだろう。またそれを行うためには先述した通り、リソースプランニングが非常に重要になる。自社のサプライチェーンにおけるリソースを最適化する一方で、「リスクマネジメント」も実現しなければならないからだ。
サービタイゼーションは、よい面だけでなく当然ながら多くのリスクを内包している。例えば、パワーバイザアワーのように、ユーザー側が機器の情報を全く知らなくても利用できるようになれば、ユーザーとメーカーの知識格差はより一層広がることになる。またユーザー側は所有していないということから一種のモラルハザードが起きるようになる。つまり、自分たちで所有しているわけではないため、乱暴に扱ったり、正しく扱わなかったりするケースだ。この場合、想定よりも稼働率が下がり最終的にメーカーの収益性が悪化することが予想される。
また、希望者全てが加入すれば、メーカー側に利益が出ないという状況になるケースもある。生命保険などでは、健康状態が思わしくない顧客は条件を厳しくするなどして、統計上で利益が出る形を作っているが、同様にサービタイゼーションでも「メーカーにとって望ましい利用方法でない企業とは契約を結ばない」ということが必要になるかもしれない。そういう条件を作り上げていくということも必要となる。
モノ売りの環境では製品購入後は製品が壊れたり、機能を果たさなかったりした場合のリスクは、ユーザー企業が抱える形になっていた。しかし、サービタイゼーションでは、メーカー側がリスクを保持し続けることになる。そのためのリスクとそれに対する対価をどう設定するか、ということは重要なテーマだ。これらの「リスクプレミアム」をどう考えるかという点を算出するためにも、リソースプランニングなしにはサービタイゼーションを行うのは難しいといえるだろう。
コンシューマエレクトロニクスには不向き
―― サービタイゼーションに向いている企業にはどういうタイプの企業がありますか。
コーへン氏 製品として向いているのは、インフラや防衛などミッションクリティカルな領域のモノだ。航空機や宇宙・防衛、発電、掘削機器、半導体製造装置、工場の機器、医療機械など、機能しないと莫大な損失をもたらすようなものでは、サービタイゼーションが効果を発揮する。実際に米国などではこれらの分野で活用が進んでいる。
コンシューマエレクトロニクス製品なども可能性はあると思うが、現状の製品であれば問題があれば買い換えればよいので、サービタイゼーションはそれほど進んでいない。また自動車などはモノとして所有する喜びを持つユーザーも数多いことからサービタイゼーションでは語り切れない面がある。
―― 日本企業のサービタイゼーションへの取り組みについてどう見ていますか。
コーへン氏 分野によってさまざまな違いがあるが、全般的に見て日本企業の取り組みは他の国々に比べて遅いといえるだろう。日本の場合、サービスは以前から重要視されてきた。しかし、それが他の国と異なり「高品質なサービスを誰にもどんなことにも提供する」という考え方になっており、「サービスを売り買いする」という発想が生まれにくい問題がある。サービスを提供して利益を生まなければ、ビジネスとして取り組む価値はない。しかし、日本の場合は高品質なサービスを、誰でも期待する状況なので、難しい部分があるように思う。ただ、日本でもサービス活用の幅を広げる動きは着実に進んでいる。遅かれ早かれサービタイゼーションは普及していくと考えている。
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