事実上ハイブリッドの新型「ワゴンR」は燃費だけじゃない! 快適性も向上:今井優杏のエコカー☆進化論(13)(3/3 ページ)
2014年8月にマイナーチェンジを行った、スズキのハイトワゴンタイプの軽自動車「ワゴンR」。モーターによる走行アシストが可能な「S-エネチャージ」を新たに採用したことから、事実上のハイブリッド車と言っていい仕上がりになっている。今回は、燃費だけにとどまらない新型ワゴンRの魅力を紹介する。
スズキのノウハウを高次元でミッ クス
こうなってくると、ちょ、待てよ! それってISGを作った三菱電機の手柄やないの! となりそうですが、いえいえ、生かすも殺すもクルマの作り手次第なんですよ。
そこに軽自動車を長年作り続けてきた、スズキのノウハウが高次元でミックスされているわけです。
例えば、S-エネチャージがユニークなのは、ISGが発電した電力を貯めるために2つの異なるバッテリーを備えていること。1つはアイドリングストップ車用の鉛バッテリーで、もう1つはモーターアシストに使うリチウムイオン電池です。
鉛バッテリーは従来のものを引き続き採用していますが、リチウムイオン電池は、従来のエネチャージに搭載されていたものから回路を変更し、ISGが発生させる100Aの大電流に対応できるように改良されています。
どうしてわざわざ種類の違うバッテリーを搭載しているんでしょうか。リチウムイオン電池がとても高価だからというのも1つの理由ではあります。でも、実を言えばコレ、「イエス&ノー」。鉛バッテリーとリチウムイオン電池、それぞれの特性を生かすためでもあるのです。
鉛バッテリーは、S-エネチャージがアイドリングスタート/ストップする際の給電/充電に使用されています。エンジン始動の際には大きな電流が流れますよね。この大電流の放出に向くのが鉛バッテリーというわけ。リチウムイオン電池は貯めた電力を長く保存するのに向いています(余談ですが、前回の記事でご紹介したトヨタ自動車のハイブリッドレーシングカー「TS040 Hybrid」には、日清紡製のキャパシタが採用されています。これはレースという特殊な状況下において、一瞬でたくさんの量を充電し、また一瞬にして爆発的に給電するのにキャパシタが向いているからです)。
何より、ISGと組み合わせる肝心要のエンジンも、「アルト エコ」のエンジンを改良したものが選択されています。
そう、ここのキモは改良ということです。新しいエンジンを投入して販売価格を上げないよう、従来のモノを徹底的に鍛え上げる! 重箱の隅をつつくつつく! 結果、圧縮比を向上して燃焼を改善し、摩擦抵抗を減らし、エンジン制御を見直し、CVTの変速制御を最適化し……などと、書いているだけで涙が出るような細かい作業の連続。
特に小型のファミリーカーにおいて、このテの改善はよく見かけるのですが、文字にするのは簡単。でも実際には生みの苦しみを経ていることは、容易に想像できちゃいます。
例えば燃焼の改善のために、ピストン頂点を磨いて滑らかにし、なだらかな凹面形状に変更しているのですが、これなんてもう、コンマ以下の出力を必要とする、チューニングカーのテクですよね。
コスト&適材適所。販売価格を大幅に上げられない軽自動車には、こういうさまざまなテクニックが随所にちりばめられているのが面白いです。
さて、冒頭で私は『何というか個人的に、「とうとう来たか!」と驚くとともに、しみじみ「ああ、もう未来なんだなぁ」と感じ入ったと言いましょうか』と書きましたが、それには理由があります。
トヨタ自動車がプリウスでワゴンRの販売台数を抜いた2009年、私はスズキの某技術者に尋ねてみたことがありました。
「そのうち軽自動車もハイブリッドになったりしますか?」
その方は大きく笑って「軽自動車があんなに重量のあるシステムを搭載するなんて不可能だよ! しかもコストも掛かりすぎる。軽のエンジンはただでさえ燃費がいいから、ハイブリッドシステムは必要ない」と断言されたのです。
それからわずか7年で軽自動車がたどった進化はお話ししてきた通り。もしかしてもしかすると、近い将来、本格的にモーター走行するワゴンRに出会えるかもしれません。さしずめネーミングは「H-エネチャージ」ってトコでしょうか。いや、ここまできたらさすがのスズキも「ハイブリッド」というネーミングを使うでしょうね。
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