小排気量クリーンディーゼルの開発、最大の難関は経営陣の説得だった:マツダ パワートレイン開発担当者 インタビュー(1/2 ページ)
マツダの新型「デミオ」に採用された排気量1.5l(リットル)のクリーンディーゼルエンジン「SKYACTIV-D 1.5」は、排気量2.2lの「SKYACTIV-D 2.2」の発表から3年足らずで開発された。新世代技術「SKYACTIV」に基づくパワートレインの開発を統括する仁井内進氏に、SKYACTIV-D 1.5の開発の背景や、今後のパワートレイン開発の方向性などについて聞いた。
マツダの新型「デミオ」が2014年9月26日に発売される。新世代技術「SKYACTIV」に基づいて開発した、排気量1.5l(リットル)のクリーンディーゼルエンジン「SKYACTIV-D 1.5」を搭載するモデルは、電気自動車やプラグインハイブリッド車、ハイブリッド車を除く登録車で最も良好な30.0km/lというJC08モード燃費を実現している。
この燃費を同格の車両で比較すると、スズキが2013年7月に発売した「スイフト」の26.4km/lを大幅に上回ることになる。マツダは、2010年10月にマイナーチェンジしたデミオで排気量1.3lのガソリンエンジン「SKYACTIV-G 1.3」を搭載した際に、10・15モード燃費ではあるものの30.0km/lを達成している。今回のSKYACTIV-D 1.5を搭載する新型デミオも市場に大きなインパクトを与えそうだ。
このSKYACTIV-D 1.5をはじめ、SKYACTIVに基づくエンジンやトランスミッションなどのパワートレイン全体の開発を統括しているのが、マツダのパワートレイン開発本部副本部長とパワートレイン企画部部長を兼任している仁井内進氏である。MONOistは仁井内氏に2年半ぶりとなるインタビューを敢行。SKYACTIV-D 1.5開発の背景や、今後のパワートレイン開発の方向性などについて聞いた。
「マツダ SKYACTIVエンジン開発担当者インタビュー」 | |
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⇒ | SKYACTIVエンジンは“理想の燃焼”に向けた第1ステップ |
⇒ | 段違いのクリーンディーゼルだから国内市場でも受け入れられる |
MONOist 前回のインタビューでは、ガソリンエンジンの「SKYACTIV-G」とクリーンディーゼルエンジンの「SKYACTIV-D」を開発する上での基本的な考え方についてお聞きしました。
仁井内氏 あの時はエンジン開発を担当していましたが、現在はパワートレイン開発本部長の人見(人見光夫氏)の下で、エンジンやトランスミッションを含めたパワートレイン全体の開発を統括しています。パワートレイン企画部の部長でもあるので、今後のパワートレインの方向性などを検討する役割も務めています。
MONOist 早速ですが、新型デミオの目玉といっていいSKYACTIV-D 1.5の開発について聞かせてください。排気量2.2lのクリーンディーゼルエンジン「SKYACTIV-D 2.2」の特徴をそのままに、排気量1.5lにダウンサイジングするのには大変な苦労があったと思うのですが。
仁井内氏 実のところSKYACTIV-D 1.5は、既に確立しているSKYACTIVエンジンの開発コンセプトに基づいて開発していて、それほどの苦労があったわけではありません。
SKYACTIVエンジンの開発では、内燃機関の損失に関わる7つの制御因子をどのようにコントロールするかが鍵になります。CAEを使ったシミュレーション技術などを活用したアプローチにより、開発するエンジンの仕様に合うように制御因子をコントロールすることはそれほど難しくはなくなっています。SKYACTIV-D 1.5の場合、小型車に搭載するというパッケージングとアフォーダブル(受け入れ可能)なコスト構造という制約がある中で、それを現実的な製品に落とし込んでいく必要はありました。
MONOist SKYACTIV-D 2.2の市場投入から2年半で、小排気量のSKYACTIV-D 1.5を実用化できるとは思っていませんでした。
仁井内氏 SKYACTIV-D 1.5の量産車搭載に向けて最大の難関になったのは、開発のゴーサインを出してもらえるように経営陣を説得することでした。SKYACTIV-D 1.5の開発を始めようとしている段階では、まだディーゼルエンジンに対する悪いイメージが残っており、CX-5をはじめSKYACTIV-D 2.2搭載車がここまで売れるかどうか誰も分からない状況でした。既にSKYACTIV-D 2.2の開発は終わっていたのですが、経営陣からの「小型車にディーゼルエンジンが必要なのか」「開発したものが本当に売れるのか」といった疑問に答える必要があったのです。
パワートレイン開発を担当するわれわれがさまざまなデータや資料を示し、それを受け止めた経営陣がSKYACTIV-D 1.5が必要なものだと判断してくれました。この判断が正しかったことは、SKYACTIV-D搭載車がユーザーから高く評価され、2年7カ月で国内販売台数が累計で10万台を突破したことによって証明されたと思います(関連記事:マツダのクリーンディーゼル搭載車が国内累計販売10万台を突破、2年7カ月で)。
評価の高さを表す事例として、新型デミオのSKYACTIV-D 1.5搭載車に、SKYACTIV-Dを搭載していることが一目で分かるエンブレムを入れることになったことが挙げられます。これは顧客からの強い要望を反映したものです。
MONOist SKYACTIV-D 1.5で導入した技術を、SKYACTIV-D 2.2の改良に利用することもあるのでしょうか。
仁井内氏 SKYACTIV-D 2.2の発表から2年以上経過しているわけですから、SKYACTIV-D 1.5には新しい技術が採用されています。これをSKYACTIV-D 2.2に採用するのは当然のことです。
例えばSKYACTIV-D 1.5では、燃料噴射装置に短墳孔ノズルを採用しています。エンジンサイズの小型化に合わせて導入したものですが、SKYACTIV-D 2.2の性能向上にも役立てられると考えています。
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