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実は穴場!? 製造業が米国に工場を設置すべき8つの理由とはいまさら聞けない「工場立地」入門(3)(3/3 ページ)

長年生産管理を追求してきた筆者が、海外展開における「工場立地」の基準について解説する本連載。3回目となる今回は、製造業回帰の動きが目立つ米国の現状と可能性について解説する。

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時代の変わり目

 中国の人件費高騰の影響を世界最大のEMS企業である鴻海精密工業(フォックスコン、以下鴻海)の業績で見てみよう(図2)。売上高が10倍近く伸びたのに利益は横ばいの状況が続いている。製造を委託する発注側も工賃を上げたことが推察されるが、それでも利益率は年々低下している。100万人を超える従業員を抱える鴻海では人件費高騰は経営を大きく圧迫する。賃金高騰に耐えかねて人件費が割安な中国内陸部に工場移転を続けているが、この先、何年持つかは分からない。最終的には、巨額の移転コストが回収できない可能性もある(関連記事:iPhoneを製造するフォックスコンは、生産技術力をどこで身に付けたのか?)。

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図2:鴻海精密工業の連結売上高/純利益の推移(出典:ファインテック 中川威雄氏 型技術 第28巻第7号「フォックスコンのモノづくり」)(クリックで拡大)

 鴻海の急激な成長と利益低迷で導かれる結論は、低賃金に依存する中国型ビジネス・モデルの成功は一時の幻だったということである。工程を単純作業に分割し、非熟練労働者の人海戦術で携帯電話端末を組み立てるビジネスが、人件費の高騰で難しくなっている。鴻海 会長の郭台銘氏は「ロボットを導入すればよい」と語っているが、話はそう簡単ではない。

 まず、鴻海クラスの工場を全面的に自動化するには、ロボット整備に必要な数万人の保全技術者を確保しなければならない。自前で育てたら何年かかるか分からず、事実上不可能だ。しかも、異なるベンダーの装置を組み合わせて生産ラインを組むシステム・インテグレーターが存在しない。100万人以上の労働者を一糸乱れず動かす軍隊式管理で成功した鴻海だが、100万台のロボットを動かす生産技術力は今のところ、持ち合わせていないのである。

 最低賃金が上昇したとき、競争の激しい業界では人件費負担の増加分を顧客に転嫁するのが難しい。労働生産性を上げて増加分を吸収しなければならない。だが、これができるのは、日本的工場管理だけである。実際に現在再建中のクライスラーも懸命にこれに取り組んでいる。従業員教育に投資しない中国企業の導入は今のところ絶望的だと言わざるを得ない。見方を変えれば、日本企業が鴻海に替わってEMSを担うチャンスが巡ってきたともいえる。

 部品実装、ロボット、自動倉庫など、関連企業がEMS連合を組んでプリント基板実装工程の無人運転を目標に自動化に取り組む。例えば、拠点工場は、豊富な労働力、優遇策、ANA国際物流ハブがある沖縄経済特区に建設してはどうだろうか。中ロットのEMSで無人実装を研究し、開発した装置は一切公表・外販しない。鴻海のコストに対抗できる見通しが立った時点でファブレス企業に発注を迫り、米国に工場を建設する。人件費が安いメキシコで最終組み立てをしてもよい。これらの大きな可能性を考えれば、そういう想像さえ膨らむ。

日米両輪体制の構築へ

 20世紀を通じて日米は競合関係にあった。戦後は1960年代の繊維から始まって鉄鋼、カラーテレビ、工作機械、自動車、VTR、半導体、次々と衝突が繰り返された。しかし、クリントン政権を最後に貿易摩擦は話題にならなくなった。また、米国と韓国、中国との間でも目立った騒ぎは見られない。ローテク産業を放棄した米国は、国内の抵抗勢力が消滅し、輸入消費財がないと困るようになったからだ。この段階に来て初めて日米の製造業がWin-Winの関係になれる可能性が出てきたのである。

 国内製造業の空洞化、衰退が止まらない以上、中小製造業は自力で事態を打開するしかない。米国進出で日米両輪体制を確立すれば、ビジネスチャンスが広がるだけでなく、為替変動に対する抵抗力も強化できる。集団進出で高性能設備を共同購入すれば、より付加価値の高い分野に進出できるだろう。将来展望が見えれば後継者問題も解決する。

 1970年代のオイル・ショックでは、燃費のよい日本車が米国市場を席巻し「雪崩的」輸出と非難されたが、中小製造業の「雪崩的」米国進出は日米双方に計り知れない利益をもたらし、OECDの長期予測を覆すかもしれないと考えている。

次回へ続く

筆者プロフィル

田尻正滋(たじり まさじ)

田尻氏

1969年、東京理科大学理学部卒業。日揮にて石油・化学・天然ガスプラントの建設・保全プロジェクトに従事。1988年、独立コンサルタントに転進。1991〜2001年までニューヨークを拠点に北米各地で現地企業を支援。1995年よりAPO・JICA専門家としてアジア・オセアニア諸国の現地企業・政府機関を指導している。

  • 「TPM Implementation」(McGraw-Hill、1992年)
  • 「Autonomous Maintenance in Seven Steps」(McGraw-Hill/Productivity、1999年再版)
  • 「自主保養七階段」(中衛、2003年)

佐藤知一(さとう ともいち)  Webサイト(http://brevis.exblog.jp/

佐藤氏

1982年、東京大学大学院工学系研究科修了。日揮にて国内外の製造業向けに工場計画・設計とプロジェクト・マネジメントに従事。特に計画・スケジューリング技術とプロジェクト評価を専門とする。工学博士、中小企業診断士、PMP。1985〜1986年、米国東西センター客員研究員。東京大学・法政大学講師。スケジューリング学会「プロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会」主査、NPO法人「ものづくりAPS推進機構」理事。

  • 「時間管理術」(日経文庫、2006年)
  • 「BOM/部品表入門」(山崎誠氏と共著、2005年)
  • 「革新的生産スケジューリング入門」(日本能率協会マネジメントセンター、2000年)



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