「借景」思想に見るシンガポール発展の秘訣――“高技術”でなく“好技術”を!:“共進化”するアジアのモノづくり(3)(1/2 ページ)
アジア地域のモノづくりで成功するためにはどういう要素が必要かを日本能率協会が実施した調査結果を交えながら解説する本連載。最終回となる今回は、シンガポールの取る戦略を軸に、あらためて「共進化(共に進化する)」ということを解説します。
アジア地域のモノづくりで成功するためにはどういう要素が必要かを日本能率協会が実施した調査結果を交えながら解説する本連載。前回の「現地社員を生かせない企業は成功しない――成功企業が実施する理念の共有」では、日本能率協会が2013年に実施した「ASEAN地域3カ国調査」の結果を踏まえながら、現地社員との関係性を築き成功している企業の事例を紹介しました。
最終回となる今回は、シンガポールの戦略を軸に、あらためてアジアと「共進化(共に進化する)」という観点から考えてみたいと思います。
「高技術」よりも「好技術」
「従来のわが国ものづくり企業、特に完成品メーカーの成功モデルであった『高性能・高品質製品であれば売れる』というビジネスモデルは限界を迎えており、企業自らが競争力を発揮できるビジネスモデルへと変革することが求められている」
「コモディティ化した製品分野では自前主義にこだわることなく、外部資源を積極的に活用(生産委託)することが必要」
経済産業省が発行している2013年度版「ものづくり白書」では、日本経済を支えてきた製造業の競争力が揺らいでいるという現状認識を示すとともに、上記のように、企業が自らの競争力を発揮できるようにビジネスモデルを変革することが必要であると述べています(関連記事:海外流出は是か非か、進む日本のモノづくり空洞化)。
また図表1の通り、ものづくり白書でも指摘されていた「日本の製造業は技術力が高いけれども、経営力が弱い」という話も、よく耳にします。
日本のモノづくりが、自前主義から脱却しビジネスモデルを変革する。そのためには、日本の高い技術力を生かしつつ、経営力やグローバル化といった弱点を補ってくれる良いパートナーを見つけることが重要な鍵となります。しかも、生産委託という観点だけではなく、研究開発や販売などさまざまな面で連携相手を求めるべきではないでしょうか。
これに関して、日本能率協会が2012年度に実施した「日中韓経営課題調査」において、長年にわたって中国企業と日本企業の連携に取り組み、その傍ら日本の中堅メーカーの経営支援を行っている上海電気(日本)CEOの張春華氏へインタビューをした際に、示唆に富むコメントがありました。
私の経験から日本企業の課題を挙げるとすると、それは「製品」と「商品」の違いにあります。日本企業には、世界一の「製品」を作る優れた技術があります。これまで長年にわたって基礎研究を重視し、生産技術を蓄積してきた成果です。ただ、せっかくの技術も収益につながらなければ、意味がありません。時には完璧に良いものではなく、ほどほどのものでも早く欲しいというお客さんもいます。そのためには、「高技術」つまり単に高い技術力というのではなく、お客さんのニーズに合致し好ましい「好技術」を重視するべきだと思います。
中国企業には商人のカルチャーがあって、稼ぐことを重視します。日本企業も、技術を生かしながら、「商品」を作り上げていくという発想が必要ではないでしょうか。
日本企業の基礎を重視する最高のモノづくりの文化と、中国企業の柔軟で強い商業の文化、この2つを融合させることで、特に日本企業が、世界に出ていくときに、両者はよいパートナーになるのではないでしょうか。
顧客に良かれと思っていても、本当に「好ましい」と思われているかどうか。特に海外においてこれらの認識を獲得するのに、日本人だけでは限界があります。このようなときに、現地の志向が分かっているパートナーと連携することが重要となるでしょう。現地の顧客にとっての「好技術」を生かしてこそ、売れる「商品」を作り出すことができる。自前主義にこだわるのではなく、柔軟に外部のアイデアを取り込むスタンスが必要となります。
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