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現地社員を生かせない企業は成功しない――成功企業が実施する理念の共有“共進化”するアジアのモノづくり(2)(2/2 ページ)

アジア地域のモノづくりで成功するためにはどういう要素が必要かを日本能率協会が実施した調査結果を交えながら解説する本連載。2回目となる今回は、ASEANでの展開に成功する企業と失敗する企業のマネジメントの実例を紹介する。

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ASEAN事業好調企業の5つの共通点

 ここで、前回も取り上げた「ASEAN地域3カ国調査」(2013年)から、現地の力を生かすマネジメントについてのデータをご紹介します。

 今回の調査では、ASEAN地域のうち、タイ、シンガポール、インドネシアの3カ国の現地日系企業を対象に調査を実施しています。図1は、「現地拠点のマネジメントの傾向」に関して、「経営数値を現地の社員に開示しているか」「本社の方針を現地の社員と共有しているか」「現地マネジャーに自主的に目標を設定させ、進捗管理を行っているか」「日常的に現場社員とコミュニケーションをとり意見を吸い上げているか」「社員の提案やアイデアを奨励する活動をしているか」の5つの項目の実施度を尋ねた結果です。

 それぞれ、ASEAN事業が好調である企業と、それ以外の企業とで比較したグラフですが、ご覧の通り、5つの項目のいずれについても、「好調企業」の方が「そのようにしている」傾向が高いという結果が見られました。ここで挙げた項目は、どれも当たり前のことかもしれません。しかし、これらの「現地従業員の力を引き出す努力」を地道に実行しているかどうかが、業績に関係しているということを真剣に受け止めるべきでしょう。

「ASEAN事業の好調度合い」と「現地拠点のマネジメントの傾向」
図1:「ASEAN事業の好調度合い」と「現地拠点のマネジメントの傾向」(クリックで拡大)

理念を共有する

 今回の調査では、実証研究としてASEANで事業を成功させている企業へのインタビューも行っています。例えば、味の素・インドネシアは、現地志向の商品開発・営業で強みを発揮している企業の1つです。現地販売会社の営業社員は、毎日、市場の店舗を1軒1軒回り、小袋に包装された商品を陳列しています。この地道な活動の土台となっているのが理念の共有です。「自分たちの仕事は、現地の食事が今よりさらに美味しくなって、家族が幸せになることに貢献しているのだ」と、現地の日本人トップが社員に語り続けているそうです。

 また、日立金属・タイでは、徹底した情報共有、現地化を行っています。製品群の収益責任をタイ人マネジャーに任せることによって、コスト意識や経営参画意識を醸成することに成功していました。赴任する日本人駐在員の人選の際にも、現地社員の意向が反映されるというから驚きです。それほどまでに信頼し任せることで、現地社員たちが自主的に改善活動を行い、生産性向上に取り組むようになっているのです。信頼をベースにした経営を実践している例といえるでしょう。

 その他の企業も含め、インタビューをした現地トップの皆さんが口をそろえて述べていたのが「当たり前のことを、地道に続けてきただけ」ということでした。残念ながら、現地でのマネジメントに近道はないようです。

現地との協働から始まる日本企業のグローバル化

 現地に赴任すると、日本でのポストよりも2段階上位の役割につくことはよくあります。日本ではマネジメントの立場になかった人もいるようです。そのような方々が、十分な赴任前研修を受けることもなく現地に赴き、日本とは文化や価値観、仕事の進め方の異なる現地の社員をマネジメントするのですから、苦労が絶えないのも無理はありません。コミュニケーションのギャップにぶつかるのも当然です。

 このようなマネジメントの課題に応えるために、日本能率協会では、現地駐在の日本人マネジャー向けの研修を実施しました。研修に参加された皆さんは「現地の社員と目的を共有し、信頼関係をつくり、一緒に目標に向かって成長していく」という“マネジメントの基本”を実施する重要さに気付かれたようです。前述した日立金属・タイの現地トップの方も「マネジメントの極意は、結局は相手の立場で考えること」と話しています。むしろ、日本にいると全てのことが「あ・うん」のコミュニケーションでできてしまい、こうした当たり前のことに気付きにくいのかもしれません。

 コミュニケーションは組織の中でメンバーが協働して何かを成し遂げる基盤となるものです。それは単に言語の違いではなく、互いの考え方や価値観の違いを前提にしながら、相互に理解し合うことです。そのためにも、会社が目指す理念や、仕事の一つ一つの目的を共有することが大切であり、これを組織に行きわたらせることが現地のマネジャーの最大の役割と言えます。これはASEANに限ったことでなく、日本でもその他の海外の国々でも同じです。

 現地の社会や顧客と向き合い、そして現地社員と協働することで初めて、日本企業の内なるグローバル化が始まるのではないでしょうか。これこそが、現地と「共・進化(共に進化)」することに他ならないのです。

※)今回ご紹介したインタビューの内容も含め、ご紹介している「ASEAN地域3カ国調査」の報告書は、日本能率協会のWebサイトに掲載(PDF)しています。


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