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エアバッグ展開時の衝撃力はウサイン・ボルトの全力タックルと同じいまさら聞けない 電装部品入門(15)(4/4 ページ)

自動車の安全システムとして知られるエアバッグだが、エアバッグが展開する際のさまざまなリスクはあまり知られていない。エアバッグ3部作の最終回である今回は、エアバッグ展開のリスクやエアバッグ搭載車についての注意点を紹介する。

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SRSコントロールユニットは水分に注意

 SRSコントロールユニットは、基本的に室内に設置されています。

 室内ということは雨や洗車時にぬれる危険性がなく、配線には防水加工が施されていません。

 例えばエアコン吹き出し口にジュースをこぼしてしまったりすると、その水分が巡り巡ってコントロールユニットに到達し、内部でショートが発生してエアバッグが展開ということも起こりえます。

 他にも冠水したことがある車両や、エアコンの不具合によって室内がビショビショになってしまった場合、コントロールユニットまで水分が到達していると、何かのきっかけで展開に至ってしまう可能性があります(錆の進行具合などにもよる)。水分が触れてしまった可能性がある場合は交換するなど、未然防止を徹底しましょう。

助手席用エアバッグだけ展開することがある

 ご存じの方は非常に少ないのですが、エアバッグの展開条件の中で「シートベルト着用の有無によって展開判断を行う衝撃の大きさが異なる」場合があります。

 まず大前提として、シートベルトをしていない場合は上半身を拘束する物が存在していません。このため、少しでも抑制できるようにエアバッグの展開条件を緩めることがあります。

 つまり助手席に誰も乗っていない状態(電気信号的にはシートベルト非着用)で衝突事故を起こした場合、運転席用エアバッグよりも助手席用エアバッグの方が展開判断に至る衝撃のしきい値が小さくなります。

 仮にシートベルト着用時の展開判断が時速30km以上での衝突とし、非着用時が時速25km以上とすると、時速25〜30kmで衝突したら助手席側エアバッグのみ展開することになります。

 普通に考えれば、

「助手席側だけ展開するなんて、絶対にシステムが壊れている!」

というお気持ちになってしまうと思いますが、これは正しい判断が行われた結果なのです。

 他にも条件ギリギリで片側だけ展開判断に至る場合など、細かく挙げていけばさまざまなケースが存在していますが、複雑になり過ぎますので割愛します。基本的に、エアバッグ警告灯が点灯していない状態であれば、展開の有無は正常に判断されているとお考えください。

専門知識がない状態での脱着は危険

 SRSエアバッグシステムに関連する電気配線は、取り扱いを誤ると展開してしまう危険があります。危険な配線だということが分かるように、専用の配線色やカバーが取り付けられています。

 ユニット自身も、特殊な工具でなければ取り外せないので、SRSエアバックシステムに関連する箇所は、中途半端な知識で触らないようにしましょう。

 SRSエアバックシステムは人命に関わる重要なシステムですので、自動車メーカーやエアバッグメーカーが長年積み重ねてきた膨大な知識とノウハウが注がれています。しかしそれはあくまでも事故を起こした後に役立てられるものであり、根本的には事故を起こさないような安全運転の方が大切です。

 ここまで長々とお話ししてきましたのでご理解いただけたと思いますが、

「エアバッグが搭載されているから安全だ!」

「エアバッグがあるからけがしないだろう」

といったことは決してありません。過信せずにエアバッグを展開させないことを最優先にした運転をよろしくお願いします。



 次回はエアバッグと切っても切れない縁のあるシートベルトを取り上げます。お楽しみに!

筆者プロフィール

カーライフプロデューサー テル

1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成、完成検査員(テストドライバー)、スポーツカーのスペシャル整備チーフメカニックを経て、現在は難問修理や車両検証、技術伝承などに特化した業務に就いている。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にしたメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により、自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。



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