“体験経済”時代のプラットフォームを目指すダッソー、カバー領域をさらに拡大:PLMニュース
ダッソー・システムズは年次ユーザーイベント「3DEXPERIENCE FORUM JAPAN 2014」を開催。それに先立ちフランス本社の社長兼CEOのベルナール・シャーレス氏が記者会見を行い、製造業を取り巻く環境の変化と同社の取り組みについて説明した。
フランスDassault Systemes(以下、ダッソー)の日本法人ダッソー・システムズは2014年6月2〜3日、都内でユーザーイベント「3DEXPERIENCE FORUM JAPAN 2014」を開催。同イベントに先立ち、2014年6月2日にダッソーの社長兼CEOであるベルナール・シャーレス(Bernard Charles)氏が記者会見を行い、製造業を取り巻く環境の変化と同社の取り組みについて紹介した。
ダッソーでは顧客拡大を進めているが、2013年は1万9000社の新規顧客を獲得。顧客企業は19万社に達するなど、順調な成長を見せた。シャーレス氏は業績について「中国などあまりいい状況ではないところもあるが、全体的には成長している。為替のマイナス影響を受けたものの現地通貨ベースで見れば、2桁成長を持続できている」と語る。
好調を持続する中、同社が新たな戦略製品として展開を進めているのが「3Dエクスペリエンス・プラットフォーム(3D Experience Platform)」だ。シャーレス氏は「ダッソーでは設計・製造現場に今までいくつもの革新を起こしてきた。約20年前となる航空機『ボーイング777』の設計開発では、当社のシステムにより初のフルDMU(デジタルモックアップ)を実現するなど、製造業に新たな価値を提供してきた。さらにPLM(プロダクトライフサイクルマネジメント)も時間はかかったものの、普及を進め今ではほぼ定着してきた。そして、現在目指しているのが3Dエクスペリエンス・プラットフォームの普及だ」と力を込める。
この3Dエクスペリエンス・プラットフォームの効果的な実現のために、既存分野の強化に加えて、ポートフォリオ拡大に積極的に取り組んでいるという。
製品だけでは選ばれない! 購入を決めるのは“体験”
3Dエクスペリエンス・プラットフォームの展開について、ダッソーでインダストリーおよびマーケティング&コーポレートコミュニケーション担当エグゼクティブ バイスプレジデントを務めるモニカ・メンギニ(Monica Menghini)氏は「“体験”を作成する基盤となるのが3Dエクスペリエンス・プラットフォームだ」と説明する。
「iPhoneやネスプレッソ、テスラモーターズの電気自動車などを見れば分かる通り、製品だけで選ばれる時代は終わった。製品やサービスなどを組み合わせた総合的な“体験”をどう作るかということが製造業には求められている。既に経済そのものが“体験経済”とも言うべきものへ移行しつつある。当社もそれに合わせて“体験”を作るのに最適なプラットフォームを提供しなければならない。設計だけをカバーしていればいいという時代ではない」とメンギニ氏は語る。いい製品を作り出すには、モノの形を作るだけでなく、サービスとの連携や、新たなアイデアの取り入れなど、幅広い領域をカバーする必要があるということだ。
例えば、新たなアイデアを生み出すためには、設計・開発のプラットフォーム上でさまざまな部門、企業の人間とコミュニケーションおよびコラボレーションすることが求められている。メンギニ氏は「これらのニーズに応えるためにソーシャルコラボレーションアプリを3Dエクスペリエンス・プラットフォームには取り入れている」と話す。
PLMでカバーできない領域のプラットフォームへ
また、従来のPLMではカバーできない領域も今後は積極的にカバーしていく方針を示す。その例の一端が新たにダッソーのポートフォリオに加えたドイツのRealtime Technology(RTT)と米アクセルリス(Accelrys)のソリューションだ。
2013年末に買収したドイツRTTは、新ブランド「3DXCITE」として提供していくことを発表(関連記事:ダッソー、販売・マーケティングにCADデータを活用する「3DXCITE」立ち上げ)。また2014年1月に買収した米アクセルリス(Accelrys)については2014年6月2日に「BIOVIA(バイオビア)」として展開していくことを発表した(関連記事:ダッソー、バイオ・化学分野向けの研究開発支援ソフトメーカーを買収)。
3DXCITEは、CADデータを映像および画像コンテンツのデータとして利用できるもので、セールス、POS、チラシ、消費者向けWebサイトなど、これまで以上に幅広い用途で再利用できるようにするもの。ゼロからマーケティング素材を作らなくて済む他、設計が完了した時点で広告作成などが可能で、より短いリードタイムで製品リリースが可能となる。販売やマーケティング領域で“体験”を演出することが可能だ。
一方、BIOVIAは、バイオ・化学・素材分野において、研究開発のライフサイクル管理やデータ収集・解析の自動化などを可能にするもの。科学分野向け製品ライフサイクル管理(PLM)ソリューションとして導入拡大を進めていく。「ライフサイエンス分野においてデジタル化が進みつつありその意味で期待感が大きい。さらに加えて既存顧客を含む全事業においてもバッテリー素材などを考えると親和性が高い。時間はかかると思うがいずれは製造分野に匹敵する市場規模に成長すると見ている」(シャーレス氏)。
これらの新ブランドを含む製品ブランドを一貫したプラットフォームで提供するのが3Dエクスペリエンス・プラットフォームの狙いだ。「各ブランドを一貫した形で提供する基盤が必要になる。なぜなら、将来のイノベーションは各個別の製品ブランド領域の中からは生まれず、これらをつないだところから生まれるからだ」とシャーレス氏は強調している。
これらの流れに応じ、同社では各製品ブランドによる個別の強化に加え、これらのブランド間を結ぶ提案を行うため、12の業界に向けたソリューション提案強化を重要戦略として取り組んでいる。さらに地域に応じた取り組みなども強化しており、新たなイノベーションの基盤として提案するため、体制構築にも取り組む(関連記事:ダッソーが狙う「12×12×3」――日本で2016年に売上高500億円以上を目指す)。
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