エアバッグの前に付く「SRS」の意味を理解しよう:いまさら聞けない 電装部品入門(13)(4/4 ページ)
今や「装備されていて当たり前」の安全システムとなったエアバッグについて、今回から3回に分けて解説する。エアバッグの前に付く「SRS」には、エアバッグの根幹を成す極めて重要な意味があった。
エアバッグの展開に伴う工夫
エアバッグが実際に展開し、ダミー人形の頭部が柔らかいエアバッグに包み込まれて保護される瞬間をご覧になったことがありますか? 最近はテレビなどで目にする機会も多いので、一度くらいは見たことがあるかもしれませんね。
スローモーション映像であれば、衝突した瞬間にエアバッグが展開を開始し、衝突の慣性力で前方へ倒れ込んで行く上半身を見事にエアバッグが受け止め、最後は柔らかいクッションのような状態で顔面を包み込んでくれるように見えます。
今となっては当たり前の光景かもしれませんが、実は最後に柔らかく包み込むような絶妙な状態を実現するのに、エアバッグ開発陣は一番苦労したと聞きます。
乗員が衝突の勢いで前方へ倒れ込む時間は言うまでもなく一瞬です。
その一瞬の間にエアバッグは完全に膨張している必要がありますので、爆発現象を利用して窒素ガスを発生させる方法が採用されています。
一瞬で膨張する、つまり相当な勢いをもった状態でエアバッグは顔面と衝突することになりますから、乗員は顔面にかなりの衝撃を受けることになってしまいます。
仮に完全に膨張した状態でエアバッグの作動が終了したとすれば、固い風船状のエアバッグに顔面が衝突し、それが原因で重大な傷害を負うことにもなりかねません。
つまり、乗員がエアバッグと接触すると同時、もしくはその直前で、エアバッグ内に充満した窒素ガスを絶妙に排出することで、顔面への衝撃を緩和させなければならないのです。そのため、エアバッグの背面には排出口が設けられています。この排出口の大きさや配置などに最も苦労したといいます。
ちなみにサイドカーテンエアバッグは、運転席や助手席用のエアバッグとは少し考え方が異なります。
室内に存在している固い部分に頭部が直接衝突することを防止するのが目的ですので、膨張してから意図的に窒素ガスを排出させて柔らかくする必要はなく、カーテン状の風船を車室内側面に張り巡らせることでその役割を果たしています。
次回は、エアバッグ展開の前提条件となる車体に加わる衝撃を緩和する衝撃吸収ボディと、エアバッグを展開するかしないかのロジックについて取り上げます。お楽しみに!
プロフィール
カーライフプロデューサー テル
1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成、完成検査員(テストドライバー)、スポーツカーのスペシャル整備チーフメカニックを経て、現在は難問修理や車両検証、技術伝承などに特化した業務に就いている。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にしたメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により、自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。
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