車載マイコンにARMを採用したフリースケール、中国市場を攻略へ:車載半導体
Freescale Semiconductor(フリースケール)が、ARMの「Cortex-Mシリーズ」を採用した車載マイコン「Kinetis EAシリーズ」を発表した。Kinetis EAシリーズ投入の狙いは、中国市場の攻略にある。
Freescale Semiconductor(フリースケール)は2014年3月、ARMのマイコン向けプロセッサコア「Cortex-Mシリーズ」を搭載するマイコンファミリ「Kinetis」に、車載分野向けの製品群「Kinetis EAシリーズ」を追加すると発表した。主に、シートやサンルーフ、室内照明の制御、燃料ポンプなどのボディ電子系システム、二輪車のエンジン制御システムといった用途に向ける。既にサンプルを出荷している。1万個購入時の参考単価は、42セント〜1.4米ドル。
Kinetis EAシリーズのプロセッサコアは「Cortex-M0+」で動作周波数は48MHz。組み込みフラッシュメモリの容量は最大128kバイト。CANやLINといった車載ネットワークの他、SPIやI2Cなどに対応するインタフェースを搭載する。動作電圧範囲は2.7〜5.5Vで、モーターも駆動させられる。動作温度範囲は−40〜125℃。車載部品の品質規格であるAEC-Q100の認証も取得している。
中国地場の自動車メーカー/ティア1サプライヤに売り込む
Kinetis EAシリーズは、中国・上海で開催された電子技術の専門展示会「electronica China」(2014年3月18日〜20日)で発表された。これは、同シリーズが、中国市場を強く意識して開発された製品だからだ。フリースケールは、「特に中国など、市場投入時間が最重視され、開発者がARMアーキテクチャに習熟している市場での需要が見込まれている」と説明。Kinetis EAシリーズを使えば、最初のプロトタイプを24時間で開発でき、開発期間の2週間以上の削減も可能になるという。
フリースケールは、「Power Architecture」ベースの32ビットマイコン「Qorivva」や、アナログ機能を集積した16ビットマイコン「S12 MagniV」などを車載マイコンとして展開している。Motorola(モトローラ)の半導体事業部時代を含めて、20年近く車載マイコンの世界シェアでトップを握り続けるなど、高い採用実績を誇ってきた。
ただし現在は、車載マイコンのシェアトップの地位は、NECエレクトロニクスとルネサス テクノロジの合併によって2010年4月に発足したルネサス エレクトロニクスに奪われている。ルネサスの車載マイコンシェアが40%超なのに対して、フリースケールは約20%と2倍近い開きがある(関連記事:「シェアトップは必ず奪還する」、フリースケールが車載マイコンの国内展開を強化)。
今回のKinetis EAシリーズの投入は、車載マイコンのシェアトップ奪還に向けた布石となる。主戦場は先述した通り中国だ。
中国の自動車市場では、ドイツを筆頭に、欧州、米国、日本といった外資の自動車メーカーが販売台数を伸ばしており、中国地場の自動車メーカーは苦境に立たされている。外資メーカーに対抗するには、中国地場メーカーは短期間で商品力を高める必要がある。しかし、中国地場の自動車メーカー/ティア1サプライヤは、日米欧の自動車メーカー/ティア1サプライヤとは違って、独自のプロセッサコアを搭載するフリースケールやルネサスの車載マイコンに慣れ親しんではおらず、これまでの開発資産も持っていない。
その一方で、中国の若手〜中堅のエレクトロニクス技術者は、汎用マイコンを中心に2000年以降急速にシェアを拡大しているARMマイコンへの習熟度は高い。例えば、2013年8月にフリースケールが中国・ハルビンで開催したロボットカー競技会「The Freescale Cup(フリースケール・カップ)」の世界大会では、Kinetisの評価ボード「Freedom」を用いた中国代表が圧勝(関連記事:世界レベルの戦いはかくも厳しい――それでも東大チームの挑戦は続く)。同時に行われていた中国大会は、政府が支援し、中国全土から技術系大学が参加するほど大規模なものだった。もちろん使用マイコンはKinetisである。
Kinetis EAシリーズは、ARMマイコンへの習熟度が高い中国の若手〜中堅技術者の力を車載分野で引き出す上でうってつけの製品になる可能性は高い。そして、世界最大の自動車市場である中国地場メーカーに、Kinetis EAシリーズが浸透すれば、フリースケールが車載マイコンのシェアトップを奪還するのもあながち不可能とは言えないだろう。
関連記事
- ARMが放つ車載プロセッサ市場への刺客、「ARMv8-R」は仮想化でECU統合を実現
ARMが新たに発表したプロセッサアーキテクチャ「ARMv8-R」は、車載システムや産業機器の市場を意識した機能拡張が施されている。リアルタイム処理が可能なプロセッサコアとして初めてタイプ1ハイパーバイザをサポートしたことにより、1個のECUで複数の車載システムを制御するECUの統合が可能になるという。 - ARMが挑む最後のフロンティア、車載マイコン市場は攻略できるのか
スマートフォンやタブレット端末向けプロセッサ製品のアーキテクチャでほぼ独占的なシェアを築くとともに、汎用マイコンでも勢いを見せつけるARM。そのARMにとって最後のフロンティアと言えるのが、自動車の制御系システムに用いる車載マイコンである。 - 「メーターは車載情報機器の1つ」、フリースケールはARMコア製品で対応へ
フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンは、カーラジオや低コストの車載情報機器、ディスプレイメーター向けに、ARMのプロセッサコアを非対称構成で2個搭載する「Vybrid」を展開する。同社は、Vybridの投入に合わせて、メーターの分類を車載情報機器に変更した。これにより、メーター向け製品のプロセッサコアは、従来のPower ArchitectureからARMに置き換わることになる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.