今年は関西勢が圧倒! ハイレベルな上位6校の走行:車を愛すコンサルタントの学生フォーミュラレポ2013(2)(2/2 ページ)
前回に引き続き、周回路の耐久走行審査「エンデュランス」を走行した学生たちのフォーミュラカーを紹介。今回は上位校編! 会場のピットエリア内の「EV展示コーナー」で見た初音ミクのバイク「MIRAI・TT零13」も紹介する。
茨城大学(No.5)
昨年までのマシンとは大きく異なり、フロントとリアに大きなウィングを装着した茨城大学の「IUSI09」、スズキ「GSR600」のエンジンとカーボンで作成したワンオフのマフラーの組み合わせから最高の排気音を奏でます(筆者の一番好みの音でした)。
今大会は巨大リアウィングを装着したマシンが数多く見られましたが、走行中のバランスはこのマシンが一番良いように思いました。同時に周回していた大阪大学と比べると、コーナリングのリア周りの挙動が落ち着いていた印象です。
残念ながらドライバー交代時にバッテリートラブルでリスタートできずリタイヤとなりました。前日にも同じトラブルが発生しましたが、「バッテリーそのものの老朽化」という判断に間違いがあったようです。結果、総合25位と大きく順位を落としましたが、来年はしっかりトラブルシューティングをして上位争いをすることでしょう。
京都大学(No.23)
さて、オートクロス競技で2位に入った京都大学のマシン「KZ-RR11」はヤマハWR450Fの単気筒エンジンと10インチホイールを装着した小型軽量マシンです。駆動方法はチェーンではなくハイポイドギアを使ったシャフトドライブ。単気筒エンジンらしい歯切れの良い排気音を響かせながら疾走、第一コーナーの立ち上がりでは毎回きれいなテールスライドを披露し、低速からのピックアップの良さを見せつけます。
2人のドライバーのスキルも高いレベルでそろっていて、結果は2位の大阪大学に30秒近い差をつけての1位でした。燃費もICV(Internal Combustion Vehicle=内燃機関車)の1位を獲得し、チーム結成10年目にして初の総合優勝を飾りました! おめでとうございます!
上智大学(No.27)
最後の出走は、前日のオートクロス競技でトップの成績を収めた上智大学ソフィアレーシングのマシン「SR-12」。昨年から装着した前後の大きなウィングをさらに進化させ、リアウィングは何と可変式(F1で言うDRS=直線ではウィングを水平にして空気抵抗を少なくし、コーナリング手前からはウィング後端を上げ、ダウンフォースを稼ぐ)という凝りよう。その効果もあってか一番長いストレートエンドでの車速は時速90km台に届きます。
昨年、一昨年と2人目のドライバーを務め、残り数周でトラブル〜リタイアとなった今年のチームリーダーでもあるドライバーの藤本君は、ゲンも担いでか1人目のドライバーとして出走、ここ2年間のうっぷんを晴らすかのようなスムースかつ熱い走りでファステストラップ更新を続け、ついには1分3秒の前半を記録。前日までの成績も当然上位のため、京都大学との一騎打ちの様相となりました。
ところが、2人目のドライバーに交代するためのピットインまであと半周の所で無念のマシントラブル……。またもや完走することができませんでした……。「悔しかったろうなぁ……」と思うと筆者も、少しうるうるしてきましたが、藤本君の感想は次回に書くことにします。
総合結果
- 優勝:京都大学
- 2位:大阪大学
- 3位:同志社大学
関西勢が圧倒と言う結果になりましたが、年々本当にレベルが上がるこの大会。EV(電気自動車)も本大会から正式種目になり、数年前から参考種目として参加を続けている静岡理工科大学が初代チャンピオンに輝きました。車・バイク大好きオヤジは必ずまた観戦に訪れます!
EVのサポート体制について物申す
2011年の学生フォーミュラレポートで、EVクラスへのモーターやコントローラーの供給に関して、ダイキンさんを除いて日本のメーカーからほとんど行われていないことに苦言を呈しました。EVクラスが正式種目になった今年になっても、その状況に変わりはないようです。
ピットエリアの一部に「EV展示コーナー」があり、古い車(筆者の愛車「ROVER MINI」)のEVコンバート車や、今年のパイクスピークEVクラスを制した「モンスター田嶋」こと田嶋伸博氏率いるタジマモーターコーポレーションのスポーティなEVなど、見ていて楽しいエリアです。
その中で異彩を放つレーシングモーターサイクルがありました。カウルサイドに初音ミクを配したそのマシンはMIRAIが製作し、伝統のモーターサイクルレース、イギリスのマン島TT(ツーリストトロフィー:公道レース)に参戦した「MIRAI・TT零13」です。
このマシン、「トライアンフ675R」(イギリス)のフレームに2機のモーターを搭載、最高速度は時速230kmに達する性能で、6位に入賞しました。ライダーの松下ヨシナリ選手が600ccクラスの練習走行中のアクシデントで亡くなるという悲劇がありましたが、松下選手の友人であるイアンロッカー選手のライディング(EVに乗るのは初めて)での6位……。もし松下選手が乗っていたらさらに上位を狙えたことでしょう……。松下選手のご冥福をお祈りいたします……。
さて、アンダーカウルにはブリヂストンをはじめ多くのスポンサーのステッカーが貼ってあります。見るからに大きいドリブンスプロケットは「64T」。スポンサーであるXAM-JAPANがワンオフで製作したものだそうです。このXAM-JAPANですが、もともと世界有数のスプロケットメーカー AFAMの仕事もしていましたが、AFAMが生産拠点を中国に移す中、愛想を尽かして供給を断ったという気骨ある会社です。
しかし……、パワートレインが「Not made in Japan」なのです。岸本氏は「Made in Japanのマシン、そして日本人ライダーで優勝する」という目標を持っています。その思いをもってしても、日本のモーターやコントローラーメーカーは「もしトラブルで火を噴いたりなんかしたら、責任は取れないし、当社のマイナスイメージになる」などの理由で供給を拒むそうです。もっと若いエンジニアの多くは「ぜひわが社の製品でマン島TTにチャレンジしたい!」との思いを持っています。でも取締役会で却下……。
こんなことでいいのでしょうかねぇ……。もちろん日本の4大モーターサイクルメーカーは独自で電動モーターサイクルの開発を強力に進めていることでしょう。しかしMIRAIの果敢なチャレンジに手を貸すとともに、マン島TTという世界で一番過酷なモーターサイクルロードレースは自社製品のテストの場として最高ではないですか! そんなスタンスだと、「失われた20年」がもっともっと続くことになりやしませんかねぇ……。
これくらいにしておきますが……、学生たちの頑張り、小さな企業の頑張りに比べてあまりに消極的な一部のメーカーのお偉いさんたちに、ぜひこの学生フォーミュラ大会を見に来ていただきたいと思います。
“できない理由”を100並べるのは簡単です。でも、そんな暇があるのだったら1つでもいいから“できる方法”を考えましょう!
次回はピットでの学生さんたちのインタビューをお送りします。(次回に続く)
筆者紹介
関伸一(せき・しんいち) 関ものづくり研究所 代表
専門である機械工学および統計学を基盤として、品質向上を切り口に現場の改善を中心とした業務に携わる。ローランド ディー. ジー. では、改善業務の集大成として考案した「デジタル屋台生産システム」で、大型インクジェットプリンタなど大規模アセンブリの完全一人完結セル生産を実現し、品質/生産性/作業者のモチベーション向上など大きな効果を生んだ。ISO9001/14001マネジメントシステムにも精通し、経営に寄与するマネジメントシステムの構築に精力的に取り組み、その延長線上として労働安全衛生を含むリスクマネジメントシステムの構築も成し遂げている。
現在、関ものづくり研究所 代表として現場改善のコンサルティングに従事する傍ら、各地の中小企業向けセミナー講師としても活躍。静岡大学工学部客員教授として教鞭をにぎる。
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