フォックスコン顧問が語る“失われた20年”が生んだ日本の未来とは?:製造マネジメント インタビュー(4/4 ページ)
日本のモノづくり環境は大きな変化を迎えている。多くのグローバル企業から製品組み立てを請け負うグローバル製造業から見たとき、日本のモノづくりの価値はどう映るのだろうか。フォックスコン顧問を務めるファインテック代表取締役社長の中川威雄氏は「“失われた20年”で苦しんだ経験こそが世界が欲しがる貴重なものだ」と指摘する。
“失われた20年”は決して失われてはいない
MONOist すると、日本の「新しいものにチャレンジする」ということもすぐに追随されるようになるということでしょうか。
中川氏 中国など他のアジアの国々でそういう人材を育てるには、高い職責を持つ人がそういう環境で育った人でないと難しい。今のところそこにチャレンジする企業はあまりない。この環境を入れ替えていくには10年以上、下手をすると20〜30年かかるだろう。
日本は1980年代に経済成長がピークとなったが、バブル崩壊後は厳しい競争に巻き込まれた。もう欧米からまねするものがなくなった中で、少しでも他社の上を行こうと無理にでも次々と技術を磨き改良を重ね、新製品開発を続けてきた。“失われた20年”は技術開発のそんなノウハウを身に付けた時期でもあった。
さらに、製品開発過程には多くの協力者の存在が必要だ。日本のモノづくりの開発インフラが世界で一番充実している国となったのはこの時期でもある。高度な技術を持つ中小製造業が、大企業の注文に応える形で育てられた。中国や韓国や台湾で、モノづくり技術の改良や新製品開発をしようと思っても、多くの場合日本企業の協力を得なければならない。海外企業の協力を得て行う開発がどんなに面倒なものは、経験者であればよく分かるだろう。要するに日本のモノづくりの開発環境は世界一恵まれている。
ビジネス上では1990年からの20年は“失われた20年”とされ、ほとんど成果が出なかった20年かもしれない。しかし、その中で新しいものを生み出す訓練を受けた人材は育ってきた。どの分野も見ても、常に今以上をやるのが、日本では当たり前になっているが、アジアの他の国々を見るとそれは例外的なことだ。その環境を生み出すにはそれなりの年月が必要になる。決して無駄ではなかったということだ。
“失われた20年”はずっと何かを生み出すために考え続けてきた時期だった。日本はこの潜在能力をもっと活用すべきだと思う。生産するところはもはや差別化につながらず、ある意味でどこでもいい。新しいモノを生み出す場として日本を活用すればいいのではないか。
例えば、アップルは、そういう意識があるように思う。技術者であれば分かると思うが、ファブレス企業であるアップルの高度部品の多くが日本のハイテク生産技術で生産され、日本の技術情報、生産技術が生かされている。日本には、中小企業の持つ技術などを含めて、非常にユニークな技術が散在している。“新しい何か”のシーズがこれほど多くあり、これほど新製品開発に便利な国はないと思う。
「イノベーションを起こしたいなら日本で」をキャッチフレーズにするといいのではないか。製品そのものや生産する技術はすぐにまねできる。私はモノづくりの専門家だからそう断言できる。グローバル企業の開発拠点を世界から日本に集めてくるのだ。
日本は小さな島国で、交通の便は良く、同一言語を話し、教育レベルも高く、人口密度も高い。既に開発環境や開発インフラは世界一整っている。今10年の差があれば10年で追い付かれると言うものではない。むしろ10年後には地の利を生かしてさらに差を広げることだってできるはずである。常に何年かの差をつけそれを保って行けばよいのだ。
開発業務だけで日本の雇用が守られるとは思わない。しかし新技術や新製品の開発の過程で生まれたものは当初は日本国内で生産されることが多いだろう。その内多くは国内で量産されるだろうし、そうなれば新たな製造業が日本に根付くことになる。
世界の製造業の大きな流れに合わせて、日本の貴重な人的資源を真に有効活用することにより、日本の製造業を発展する道を探る方向に舵を切るべきではないか。無理に日本の既存製造業を守り抜くより、貴重な過去の遺産を活用した前向きな産業改革の形があってもよいのではないだろうか。
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