検索
連載

フォックスコン顧問が語る“失われた20年”が生んだ日本の未来とは?製造マネジメント インタビュー(3/4 ページ)

日本のモノづくり環境は大きな変化を迎えている。多くのグローバル企業から製品組み立てを請け負うグローバル製造業から見たとき、日本のモノづくりの価値はどう映るのだろうか。フォックスコン顧問を務めるファインテック代表取締役社長の中川威雄氏は「“失われた20年”で苦しんだ経験こそが世界が欲しがる貴重なものだ」と指摘する。

Share
Tweet
LINE
Hatena

日本企業の生きる道とは?

MONOist では、モノづくり環境の変化の中で、日本はどのようにして生き残るべきだと考えていますか。

中川氏 日本以外のアジアの国々は、まだ新しいものを生み出す力が弱い。フォックスコンでも、材料技術や高度部品技術など入手したいものの大半は日本に存在する。これは中国企業も台湾企業も韓国企業も同じだ。韓国のサムスン電子や現代自動車は、あれだけ規模が大きくなってもオリジナルの技術や製品を生み出せていない。サムスン電子が今までやってきたのは、日本の電機メーカーの優秀な技術屋OBを積極的に集め活用することのようだ。日本にあるサムスンの研究所の話を聞いたことがあるが、まだ新製品開発は韓国人では困難で、経験豊富で優秀な日本人に期待しているということだった。

 中国の人々を見ていて感じるのが「新しい何かを生み出す」ということについて発想が乏しいところだ。また発想があっても製品化まで完成度を上げられない。「新しいものを作らないといけないときにどうするか」という課題に当たると、いつも「先進国の製品をばらして同じものを作る」という発想になる。確かに、前の人の作ったものを作る、まねをするというのは教育の第一段階で決して悪いことではない。

 中国は人口が多いので優秀な人材も日本の10倍はいる。理解力もあるし覚えも早い。ところが「新しいものをどのようなアプローチでどう作るといいものができるか」など、応用問題になると、期待できない。日本人は技術の改良や改善をさせると何となくやってしまうが、中国人は何をやっていいのか分からないようだ。

なぜ日本人は「カイゼン」できるのか

MONOist なぜ、日本人にできてアジアの他の国々の人々はできないのでしょうか。

中川氏 これには日本の企業文化があるように思う。モノづくりにおいて新卒社員が何の仕事をやるかというと、生産現場でも設計・開発現場でも「前任者や前のモデルを習え」とは言われない。「前のモノよりもっとコストダウンするためにどうするか」や「競合製品よりもっといいもの考えろ」と、“今以上”を求められるようになる。

 つまり配属後は常に現在のレベルや自分の実力より上のレベルを要求されるということだ。それに対する結果が製品の売上高やコストなど目に見える結果となって跳ね返ってくる。20代30代の若い人たちがそういう厳しい環境で過ごし、常に考え方を鍛える訓練をしている。正解があるかないか分からないものを、どうやって攻めていくかという挑戦を延々と繰り返しチャレンジする。そうすると日本の大学をのんびり卒業していた人物が、いつの間にか鍛えられ育ってくる。

 私が思うのは、若いうちにそういう経験をするのが大事だということだ。そういう経験をした人が上になれば、当然組織として、そういう考え方ができるようになる。若いうちにそういう経験を持った人が育てば会社全体が変わってくる。技術開発や製品開発は常に大きなリスクを伴うので、それに取り組むリーダーの存在が重要だ。若いうちから開発の経験を積んでいないリーダーだと、思い切ったことを行うのは難しい。

 中国人や韓国人はそういう経験がないから「新しいもの」や「今以上のもの」をどうやって生み出していいのか分からない。中国や韓国の企業は、ベンチマーク製品を分解し、基本的にコピーばかり作ることが多いように思う。若い時代にそれをやらされているから、役職が高くなっても改善開発のノウハウが身に付かない。同じやり方から外れることが怖くて新しいものを生み出せない。ベースがないから誰かのまねをせざるを得なくなっている。

 フォックスコンでiPhone用の工具を作っている中国の工場がある。そこの人たち見ていると本当に優秀だが、先ほど話したように新しいモノにチャレンジするような文化はなかった。しかしそういう人たちに挑戦させ「原理原則が間違っていなければチャレンジできる」ということを教え始めると、少しずつ変ってくるものだ。つまり企業としての人材教育の問題が大きく、これが変われば中国でも変わってくるかもしれない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る