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フォックスコン顧問が語る“失われた20年”が生んだ日本の未来とは?製造マネジメント インタビュー(2/4 ページ)

日本のモノづくり環境は大きな変化を迎えている。多くのグローバル企業から製品組み立てを請け負うグローバル製造業から見たとき、日本のモノづくりの価値はどう映るのだろうか。フォックスコン顧問を務めるファインテック代表取締役社長の中川威雄氏は「“失われた20年”で苦しんだ経験こそが世界が欲しがる貴重なものだ」と指摘する。

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モノづくりの火が消えると元には戻らない

MONOist 米国では製造業を戻そうという動きがでています。

中川氏 製造業は国にもたらす付加価値が大きい。資源の乏しい国では製造業を振興しなければ、本当には豊かにならない。米国でも「製造業活性化」というのはずっと以前からスローガンとして掲げてきた。しかし実際にはできていない。今回はどうなるか分からないが、一度消えたものを戻すのはとても大変なことだ。

 日本も空洞化が進み、競合が強くなった今、生産拠点として以前のポジションに戻るのはとても難しい(関連記事:海外流出は是か非か、進む日本のモノづくり空洞化)。米国では何度か「製造業の国内回帰」のムーブメントがあった。CAD、CAM、CAEなどが出てきたときにモノづくりをコンピュータ内でシミュレーションできるようになり、高コストの国内でも巻き返せると盛り上がったが、実際にはそれほどうまくいっていない。モノづくりの経験なしにITを駆使しても結局モノはできないからだ。今話題となっている3Dプリンタによる“メイカーズ革命”も同じだ。結局これらの米国発IT関連技術は、むしろ製造業に強い新興国の産業に役立つ皮肉な結果となっている。

 大きなモノづくりの流れを見ていると、変わるものと変わらないものがあることが分かる。「鉄腕アトム」など、昔のSFを見ると今の世の中で実現していることはかなり多い。しかし、それはほとんどがエレクトロニクスの領域においてだ。エレクトロニクスやそれに基づく通信技術の進化が今の世の中の大きな変化を支えている。

 一方で、私たちの実生活に近いメカの分野ではほとんど何も変わっていない。例えばモノづくりにしても、加工法は変化がないので、周辺技術の自動化やIT化が進んだことで技術革新が起こった。こういう原理原則に近いところは周辺技術が進化しても、そのものの技術を変えることは不可能だ。

MONOist 空洞化が進む日本国内への製造業回帰も難しいということでしょうか?

中川氏 日本も高度成長期には、現在の中国並みのスピードで成長していた。その間日本の輸出が大きくなったため貿易黒字が増大し円高になり、結果的に人件費が上がった。1ドル360円で固定相場となっていたのが120円前後になったので、人件費が3倍高くなったようなものだ。日本の製造業の競争力が相対的に落ちてきたのは当然なことだ。

 その後のバブルの崩壊後の今日までは、“失われた20年”といわれるが、日本の製造業は競争する製品を高度化して入れ替えながら努力を重ねてきた。しかし、徐々に勝負できるような新しい製品分野がなくなり、厳しくなっていったのが現在の状況だ。ただ本来は、それまで蓄積してきたものが国の富として残っているはずで、政府がその余力を使って新たな産業を育成しなければならなかった。それを必ずしもうまく生かせていない分野が多いのは非常に残念だ。

コスト面の問題が技術流出につながった

MONOist コストの面だけで日本のモノづくりは弱くなったのでしょうか。

中川氏 円が3倍以上高くなって、コストが3倍以上になれば、いくら真面目に働いても限界がある。以前は追い付く国が少なかったから勝負できたが、今は新興国が相手となりさらに人件費の差は開いており、日本で生産していると勝負できない分野も多い。先進国は世界の人口から見ればごく一部で、新興国とは人口の規模が違う。かつて香港のような都市国家で製造業が新興してきたときでも大きな影響を与えたのだから、大人口を抱える新興国の影響がいかに大きいかが分かる。

 新興国から見れば製造業の振興は必須のことであり、先進国企業の工場の招致も必然である。一方進出企業から見ると必然的に現地化を進めなくてはいけない。日本人や米国人を出張で派遣すると出張費や危険地手当など現地の人たちの10人分以上のコストが発生するからだ。だから現地の人に技術を教える必要が出てくる。「現地生産をしても技術は守れる」という人がいるが、それは特殊分野以外では、間違いだ。現地化すると全て伝わると考えた方がいい。またそうしないと現地で生産する意味はない。

 生産設備や製造機械の進歩なども現地化にプラスとなっている。高度な生産設備や製造機械が流通していれば、現地で生産するのはそれほど難しいことではない。よく日本の町工場で「わが社しかできません」という話を聞くが、実際には本当にその企業でしかできないことは、ほんのわずかだ。中国の工場を見て「まだまだ日本とはレベルが違う」という人がいるが、日本でしかできないことは、ほとんどなくなっているというのが現実だ。よっぽど特殊なものである場合を除いては、ビジネスにならないから“作らない”というだけだ。

 私は、フォックスコン中心でしか見ていないが、中国には100回以上訪問している。中国企業はレベルの幅も大きく、まさにピンキリだ。下を見ると日本とのモノづくりの差はあるかもしれないが、日本が勝負するのは上の方で、そこではほとんど差がなくなっている。中国の輸出の60%以上が、外資系企業の輸出であり、日本の競争相手でもあるので、底辺を見てどうこう言うのは間違っている。ローカル企業も力を付けてきており、フォックスコン自身も中国内での生産競争が年々厳しくなっている。

 また、産業集積の有利さも人件費と同じく考慮すべき重要問題である。自動車メーカーや電機メーカーの工場周辺に、さらには国全体に、部品や他の産業が集まってくる。そうすると日本企業も出て行かざるを得なくなる。中国や台湾やタイでは既にそういう集積化が各地で進んでおり、日本生産で仮にコスト競争力を持っていたとしても巻き返すことが難しい分野も出てきている。最初はただ人件費が安いだけの国だったものが、原材料・物流など産業集積によりさまざまなモノづくりのメリットが生まれている。

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