富士通のPC工場、勝利の方程式は「トヨタ生産方式+ICT活用」:小寺信良が見たモノづくりの現場(9)(5/5 ページ)
コモディティ化が進むPCで大規模な国内生産を続ける企業がある。富士通のPC生産拠点である島根富士通だ。同社ではトヨタ生産方式を基にした独自の生産方式「富士通生産方式」を確立し、効率的な多品種少量生産を実現しているという。独自のモノづくりを発展させる島根富士通を小寺信良氏が訪問した。
「ものづくり革新隊」サービスの提供
富士通では、2012年10月より「ものづくり革新隊」というサービスの提供を開始した。これは、富士通の工場で培ったノウハウを外販しようというもので、島根富士通でも利用実績のある各種ICTツールを提供し、他社の工場業務の改善を支援する(関連記事:FJPSとは? 富士通がモノづくりノウハウを丸ごと提供へ)。
そもそも日本には、“工場”という現場が少なくなってきている。従って、新たに生産管理システムを作りたいと思っても「作り方が分からない」「ノウハウが社内にない」ということも起こっている。そこで、現場を多数持っている富士通が実践的なノウハウを提供することで、他社の事業展開を手助けしようというわけである。既に島根富士通には、30社以上の企業が来訪しているという。
さらには、工場は不要だがモノは作りたいという企業のために、富士通の工場設備を利用して、PC以外の機器の製造委託も行うという。ファブレス企業のために、中国では盛んにEMS(Electronics Manufacturing Service、受託製造サービス)の利用が行われているが、そのレベルとは異なりもっとモノづくりの深いところまで関わって「メイドインジャパン」のモノづくりを提供する。
表面に見えるところはまねしても構わない
日本のモノづくりノウハウの海外流出は、残念ながら何年も前から続いており、その点ではものづくり革新隊サービスも、もろ刃の剣のように見える。だが宇佐美氏は「表面に見えるところはまねしてもらって構わない」という。なぜならば、日本のモノづくりを差別化しているのは働く人であり、目には見えていてもまねはできないからである。
いったんは火が消えかかった日本のモノづくりは、また再び元気を取り戻しつつある。これまで拝見してきた日本全国の“勝っている工場”は、どこも単純な差別化を目標としていなかった。競合のないオンリーワンこそ、能力の高い日本人の集団が結束してできる戦い方ではないだろうか。
筆者紹介
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
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