キヤノンのMR技術が生み出すコミュニケーションの力とは?:製造マネジメントインタビュー(2/2 ページ)
キヤノンは現実と仮想を融合するMR(Mixed Reality:複合現実感)技術により、設計・製造現場における新たなコミュニケーション実現を目指す。本格展開から1年が経過した“現在地”について、同社MR事業推進センター所長鳥海基忠氏に聞いた。
3Dプリンタと競合する?
MONOist 導入が多いのはどういう業種ですか。
鳥海氏 “大きな製品”を持つ製造業からの反応がいい。自動車や建設機械、住宅など、ディスプレイ内ではイメージしにくい製品を扱う企業だ。造船や航空機などでは、導入はまだ進んでいないが、今後は期待できると考えている。
小さい製品であれば、ディスプレイに3次元表示させれば製品のイメージはできる。また3Dプリンタを利用し、形状の実物化を行ってもよい。しかし、大きいものを実寸で見ようとするとディスプレイでは小さすぎ全体のイメージはしにくい。また3Dプリンタではコストや手間の面から難しい。MREALは、利用者が自分の視点を自由に動かして対象物のさまざまな部分を見られるため、効率的に商品構想を練ることができる。
また従来大型のものを実寸で映し出すためには複数のプロジェクタを組み合わせたウォールやケイブと呼ばれるものを使うケースが多かったが、これらは大型のものは数千万円に及ぶほど高額だ。MREALはシステム全体で700〜1000万円程度だが、各種ツールを用途に合わせて使い分ける需要はあると考えている。
機器のバリエーションを広げる
MONOist 今回新たに可搬型のシステムや手持ち型ディスプレイを用意しましたが、どういう狙いですか。
鳥海氏 MREALは自由視点を確保するために位置合わせ技術が必要になるが、MR環境を構築するのに専用の部屋が必要になる。それを持ち運び型のマーカーでMR環境を用意できるようにし、専用の部屋がない場所にも持ち運んでデモできるようにした。これにより自由度が大きく高まる。
また手持ち型ディスプレイは、ユーザーからの要望に応えたものだ。HMDでは、体型や髪形の問題などさまざまな制約条件があり使えない場面が出てくる。手持ち型ディスプレイは両手が使えなくなるデメリットはあるものの気軽に利用でき、利用範囲が広いことが魅力だ。ハードについてはユーザーのニーズに応じてさらに製品の幅を広げていきたい。
さらに、新たなパートナー企業10社との提携も発表したが、より利用しやすいようにソフトウェアや関連機器のパートナーシップ拡大を進めていく方針だ。
MONOist 販路の拡大についてはどう考えていますか。
鳥海氏 米国では2月から販売を開始したが、欧州やアジア地域の展開はまだこれからだ。引き合いはあるが、体制的に十分な環境を整えてから、広げていく。まだ一気に普及を広げる段階ではなく、技術的に十分なサポートを行い、メリットをより広く理解してもらう段階だと考えている。
MONOist 今後の展開について教えてください。
鳥海氏 MRはモノづくりの現場で「脳を使うべきところに使える」技術だと考えている。実物を体感できるため、新たな気付きを創出し革新的なモノづくりが行える可能性がある。今はまだ「すごい」と思われるだけの段階で、本当の業務の中に根付いてはいない。ハードやソフトの充実を進めるとともに、導入事例を数多く作り、それを広く訴えていきたいと考えている。将来的には商品開発の現場で必須のツールとなれるようにしていきたい。
世界同時開発を推進するには?:「グローバル設計・開発コーナー」
世界市場を見据えたモノづくりを推進するには、エンジニアリングチェーン改革が必須。世界同時開発を実現するモノづくり方法論の解説記事を「グローバル設計・開発」コーナーに集約しています。併せてご参照ください。
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