キヤノンのMR技術が生み出すコミュニケーションの力とは?:製造マネジメントインタビュー(1/2 ページ)
キヤノンは現実と仮想を融合するMR(Mixed Reality:複合現実感)技術により、設計・製造現場における新たなコミュニケーション実現を目指す。本格展開から1年が経過した“現在地”について、同社MR事業推進センター所長鳥海基忠氏に聞いた。
キヤノンでは1997年から現実と仮想をシームレスに融合させる映像技術「MR(Mixed Reality:複合現実感)」の研究開発を進めてきたが、2012年7月にMRシステム「MREAL」を商品化して発売。設計などのモノづくりの現場に向け約1年間商品展開を行ってきた(関連記事:試作レスが加速――現実とCGを融合「MRシステム」キヤノンが発売)。
MR(Mixed Reality)とは、バーチャルリアリティ技術の一種で、現実と仮想を違和感なくシームレスにリアルタイムで融合させる映像技術のことだ。例えば、今見えている視界に実際には存在しない自動車を映し出したり、部屋に仮想の家具を配置するようなことができる。
キヤノンが開発したMREALは、「ヘッドマウントディスプレイ HM-A1」と基本ソフトウェア「MRプラットフォーム MP-100H」を中心に構成されている。特徴となるのは「実寸大の臨場感」「自由視点の実現」「双方向性の実現」などだ。独自の光学技術と高精度な位置合わせ技術を活用したヘッドマウントディスプレイ(HMD)と位置認識技術などを組み合わせ、移動などを自由に行いながら現実と仮想を組み合わせた世界を自由視点で見ることができる。
2013年は、新たに可搬型技術や手持ち型ディスプレイを用意した他、周辺機器やソフトウェアのパートナー10社と新たに提携し、より幅広い用途での利用を推進している。本格展開から1年を経てMRの設計・開発現場での活用状況はどこまで来たのか。MREALの展開を統括するキヤノン イメージコミュニケーション事業本部 MR事業推進センター 所長の鳥海基忠氏に“現在地”について聞いた。
部門の壁を超えるコミュニケーションツール
MONOist 本格展開から1年がたちましたが、現在の手応えをどう感じていますか。
鳥海氏 うまくいっている部分と苦労している部分がある。発売当時はMREALを新たな3次元(3D)ビュワーの一種として「実在に近い形で見る」ことを中心に提案してきたが、1年の活動の中で求められている役割が「コミュニケーションツール」であったことに気付いた。
MREALはHMDを通じて誰でも簡単に実寸サイズで対象物を体感できる。CADなど技術的な知識がなくてもよいため、部門を超えた議論が行いやすい。相手の姿も見えるため、話し合いやすいことも特徴だ。
商品開発の現場では、設計部門が言葉を尽くして説明しても、技術知識のない営業部門やマーケティング部門、事業幹部などに話が伝わらない場面がよくある。MREALの導入先では半年間説明を繰り返してきても理解を得られなかった案件が、MREALで実物を見ることで30分で決裁できたケースもあると聞いた。また、設計前の構想段階から各部門で話し合うことで、今までとは違う形のモノづくりが行える。
幾つかの企業からは「仕事のやり方が変わった」という評価を得た。試験的な意味合いが強いものあるが、新たなツールとして導入は徐々に進んでいる。導入台数などはまだ公にはできないが、コミュニケーションツールとしての効果を訴え、浸透を進めていく。
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