“みんなここにいる”の強さ――長野発「ソニーのVAIO」が尖り続ける理由とは:小寺信良が見たモノづくりの現場(5)(5/5 ページ)
ソニーは2010年にPC「VAIO」の事業本部を長野の製造拠点に統合する決断を行った。“都落ち”にもかかわらず輝き続けるVAIOの秘密はどこにあるのか。小寺信良が長野県安曇野市にある、ソニー長野ビジネスセンターを訪ねた。
働く環境と人生設計の関係
長野ビジネスセンターは、1997年にISO14000を取得し、事業所内で発生するほとんどのものをリユース、リサイクルしている。ポイントは、58品目にも及ぶ詳細な分別だ。分別事例を写真付きで掲示し、分別を徹底している。
自動販売機は原則紙コップ式で、紙コップはトイレットペーパーなどにリサイクルされる。また全社員が毎日利用する社員食堂では、生ゴミを敷地内のコンポストで肥料化し、社員が持って帰って庭の畑にまく、あるいは近隣の農家に無償提供するなどしている。
さらに食堂で使用した廃油は、地元の福祉法人に依頼して、石けんとしてリサイクルされている。無添加石けんとして、社員の評判もいいようだ。
古い工場では省電力化が難しいが、ここでは主に空調設備のコントロールで省電力化に努めている。以前は外気をかなり取り入れていたが、冬場は外気温と建屋内の温度差が激しい地域であるということから、外気の取り込みを絞り、CO2センサーを取り付けて内部循環型に変更した。
夏のピーク時には、電力量が設定値に近づくと、館内空調のパワーを絞って調整を行う。また会議室など個別に存在するエアコンは、起動時から全力で回し続けないよう、夜中に遠隔操作で一斉に28℃にリセットされる。それで暑ければ手動で下げればよいわけで、社員に我慢を強いることなく、気付かせないように電力コントロールするというのが、長野流のようだ。
“長野”にあるメリットと新たなモノづくりのスタイル
長野ビジネスセンターは、PCの中でも特に尖った最先端モデルを専門に製造する拠点である。PCの商品化は、最も技術やトレンドが集まりやすい東京で行うのがいいように思われる。事業部集約により、ある意味安曇野に「引っ込む」ことになることは、デメリットにならないだろうか。
これをカバーする仕組みとして、商品企画やデザイナーは東京に在住し、プロジェクトの初期段階のみ長野ビジネスセンターに泊まり込みという体制をとっているという。ワールドワイドで見れば、もはや東京は中心ではないという実態もあり、さらには台湾にもサテライトオフィスがあることで、地理的なデメリットは少ないようだ。ただ唯一の難点は、海外に行く際に国際空港まで遠い、ということだろうか。
ここで働く社員の3分の2は地元からの採用で、ソニーの名前が付いた頃からIターンする人も増えてきた。VAIOの製造拠点となってからは、VAIOを作りたいという理由でやってくる人もあるという。
安曇野近郊は観光地だが、車で20〜30分の位置には松本市があり、暮らしの不便はない。また、東京に拠点があったときに比べて通勤時間が劇的に短縮されることで、働きやすく、暮らしやすい環境にある。家族連れで転勤してきた人も、家族の評判は上々のようだ。
世界があっと驚くものを、東京以外で作る。VAIOの新しいモノづくりのスタイルは、少しずつモノの価値感や、働く意味を変えつつある。
筆者紹介
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手掛けたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
海外の現地法人は? アジアの市場の動向は?:「海外生産」コーナー
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