野菜の工場生産本格稼働へ――成否のカギは出口戦略と製造マネジメント:製造ITニュース「植物工場・スマートアグリ展」
天候の影響などを受けやすい農業において、工場で環境を徹底管理して生産する植物工場が注目を集めている。既に技術的には実現可能となっているが、その鍵を握るのが出口戦略と製造マネジメントだ。2013年5月29〜31日に開催された植物工場・スマートアグリ展で関係者の話を聞いた。
野菜を工場で生産する
日本の農業は多くの問題を抱えている。農林水産省によると農業の国内生産額は1990年の13.7兆円をピークに減り続け、2011年には9.5兆円まで減少している。農業従事者数も減少の一途だ。農業に従事する農家の数は1960年には606万戸あったとされるが、2009年には170万戸となるなど減少。高齢化も進んでおり、就農者はさらに減少が予測されている。この流れの中、農業用地とされながらも実際に耕作が行われていない耕作放棄地が全国で約40万haにも及んでいるという。
一方で、食料自給率は40%を切り、輸入食材に頼る状況が続く。今後世界的な人口増加の中で食糧不足が懸念される中、自給率の向上は大きな課題となっている。就農人口が減少する中で、生産量の向上を図るためには、生産性を向上することが必須となる。その1つの解決策として注目されているのが「植物工場」だ。
植物工場とは、施設内でLED照明や空調、二酸化炭素、水分や肥料などを人工的に制御し、季節や外部環境に影響されずに農作物を生産できるシステムのこと。LED照明の普及や各種センシング技術およびITなど制御技術の進化、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)などに関連し農業強化が課題となることなどから、ここ最近急速に注目を浴び始めている。
植物工場の魅力
スマートコミュニティJapan 2013(2013年5月29〜31日、東京ビッグサイト)内で開催された植物工場・スマートアグリ展でも23ブース、33社/団体が出展し、植物工場の魅力をアピールした。
昭和電工は、LED照明を植物の成長に最適な形で照射する特許出願中の「SHIGYO法」を活用した栽培方式および、LED照明設備などを出展。2013年4月に稼働した川内高原農産物栽培工場(福島県川内村)への導入実績などで効果を訴えた。「植物の育成と照明の関連性などを研究することで、例えばレタスの苦みを抑える、というようなことが可能となる。また野菜が作れない砂漠地域などで野菜を育てることなども可能だ。将来的には海外展開も想定している」と担当者は話している。
西松建設は玉川大学と提携し、玉川大学内にLED農園を設立。特許出願中の「ダイレクト冷却式ハイパワーLEDランプユニット」方式を採用し、小田急商事との提携によりリーフレタスの販売を行っている。植物工場・スマートアグリ展では、同方式の利点をアピールした。「冷却が容易で薄膜化が可能であるため、少ないスペースでより多くの作物の育成が可能」(担当者)。
またウシオライティングは、LED照明を植物育成用に転用し、パネルユニットやバーユニットなどを実演するなど、各社が植物工場で活用する照明やメンテナンス機器などを出展した。
植物工場の課題
植物工場は、安定した環境を作り出すため、1年中安定した生産が可能な他、農地以外でも設置可能な点や、無農薬生産が可能である点など、多くの利点がある。一方で、初期投資、運営投資ともに大きくなるほか、栽培ノウハウが今は限定的であるなどの課題があるといわれている。
「植物工場の最大の課題は出口戦略だ」とウシオライティングの担当者は語る。植物工場は、場所や収穫時期の制約を受けない分、「作物の商品価値をどのように設定し、どのような価格付けで販売するのか」が自由に設定できる。そのため「販売戦略が非常に重要だ。既存の農業生産と同じことをやっていては、初期投資や運営費用のために収益性は見込めない」と同担当者は指摘する。
また販売戦略と同様だが、生産をどう計画的に運営するか、ということも重要だ。二酸化炭素濃度や照明の照射量などをコントロールすることで収穫時期を移動させることなども可能だが、無理な運用をすれば、それは無駄なコストにつながる。うまく計画的に運用することで、コストの可視化などを行うことで、安定した経営につなげることができる。
注目度は高いものの「現実的にはまだまだビジネスとして成立する時期はまだ先」と出展企業の担当者たちも口をそろえている。実際に運用を開始した農家などでも補助金を除いて黒字化を実現できているところはごく一部だ。「まずはうまくビジネスとして成立するように正しい知識を伝えていきたい」(ウシオライティング担当者)と啓発活動に取り組む姿勢だ。
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