農業の高収益を支えるのは何か、宮城県での取り組み:製造クラウド
作り過ぎや生産量の不足は製造業にとっては致命的である。流通業者や最終消費者からの情報をフィードバックできなければ、その時々に最適な生産量は決められない。農業ではこのような取り組みに課題があるのではないか。日立東日本ソリューションズなど4社1大学は、農作物の生産と販売を取り持つ実証実験を開始、高収益モデルの確立を試みる。
農業の課題は何だろうか。農業を一種の製造業として捉えると、生産管理や販売管理などに改善の余地がある。
日立東日本ソリューションズ(日立TO)*1)など4社1大学からなる先端農業コンソーシアムは、農業の販売・生産管理クラウドプラットフォームの実証実験を宮城県で開始したと発表した*2)。2012年8月から開始しているシステム開発を2013年3月までに完了し、2013年4月から、生産者や農業関係者に向けて公開する計画だ。
先端農業コンソーシアムに参加するのは、日立TOの他、NTTドコモと石巻青果、プロジェクト地域活性、宮城大学だ。プロジェクトの実証フィールドの中心は宮城県東松島市である。
実証実験の最初の段階では、石巻青果での実証に基づき、地方市場における「農商工連携」関係者ネットワークを作り上げ、生産地の競争力を高める。次の段階では各地方市場へ展開し、地域間連携を助けるとした。
*1) なお、日立東日本ソリューションズは、2013年1月1日に社名を日立ソリューションズ東日本に変更する予定だ。
*2) 2012年6月に経済産業省の「平成24年度地域新成長産業創出促進事業(先端農業産業化システム実証事業)」に採択された「農業の新高収益モデルの確立−農商工連携体での販売/生産管理プラットフォームの実証−」の実施である。
生モノでも生産管理は可能
実証実験で前提となるのは、日持ちがしない、生育が天候に左右される農産物の特性だ。だが、このような特性があったとしても需要予測や販売計画、生育予測、生産計画を立てることはできる。さらにこれらの情報を関係者間で共有し、地域内の販売者と生産者をつなぐ農業版サプライチェーン情報共有基盤を整えられれば、作り過ぎの無駄、在庫の無駄などをある程度防ぐことが可能なはずだ。これらの無駄を減らして高収益へとつなげることが実証実験の目的だ。
実証実験で検証する内容は3つある。「農産物の販売と生産の時系列管理の実現」「生産情報登録様式の検討」「地域内及び遠隔地域における販売者−生産者間のコミュニケーションの活性化」だ。
時系列管理では、生産者が需要予測を生産に反映し、流通事業者が生産予測を販売に生かすための情報共有を行う*3)。
*3) S&OPの考え方を農業に当てはめたと考えることができる。
登録様式の検討では、生産情報を毎日確実に登録する手助けとなるシステムを開発する。例えばある生産者が30カ所の農場を管理していたとすると、報告を入力する1日当たりの手間が無視できない。そこで、現場で入力できるデバイスとしてAndroidタブレットを使い、セキュリティを考慮して、クラウド環境と接続する。農業の担い手に高齢者が多いことを考慮して、情報の入力に用いるタブレット端末ではユーザーインタフェースを工夫するという。
コミュニケーションの活性化では、生産者の販路拡大を狙う。情報共有システムを用いて、生産者が流通業者とつながることで実現する。流通ネットワークの最適化も目指す。
先端農業コンソーシアム内の役割分担は以下の通り。
日立TOは、実証実験で検証する3つの内容を担当する。2012年2月から提供を開始した農業向け販売生産連携プラットフォームである「AgriSUITE」(図1)を用いる他、同社の研究開発部が開発した「生育予測ソリューション」とも連携する。石巻青果は、東松島市の実証フィールドを提供する(図2)。NTTドコモは農産物生産情報を登録する際に用いるタブレット入力用インタフェースを開発する。プロジェクト地域活性は技術指導と実証支援を担う。宮城大学食産業学部ファームビジネス学科川島研究室は、農産物の販売と生産の時系列管理に取り組む。販売データの推移を基に、価格の安定化のタイミングを見極め、生産計画の立案を支援するという。
関連キーワード
生産管理 | 製造マネジメントニュース | クラウドサービス | Sales and Operations Planning(S&OP) | PLM | 農作物 | 工場 | NTTドコモ | 東北大学
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「製造マネジメント」全記事一覧
これまで掲載した連載や主要ニュースを一覧できます。 - クラウドやセンサーネットワークを活用し、被災地の農業・漁業の再生を支援
農林水産省と復興庁が公募した「食料生産地域再生のための先端技術展開事業」の研究事業者として富士通が採択された。クラウドやセンシング技術などのICTを活用した、新しい農業・漁業モデルの確立を目指す。 - 農業の生産性向上や品質改善に貢献――NECとネポンが農業ICTクラウド事業で協業
NECとネポンは、農業ICTクラウドサービス事業に関する協業を発表。農業の生産性向上や農作物の品質改善などに貢献する、センサーネットワークを活用したソリューションの共同開発を行う。 - 本当にITで農業を救えるのか!? コストイノベーションと地域視点で新たな営農スタイルを目指す「T-SAL」
現役就農者の高齢化や後継者不足に伴う農家人口の減少、耕作放棄地の増加など、日本の農業が抱える課題に対し、IT/ICTで持続可能な農業を実現しようとする取り組みが各所で進みつつある。その1つが、東北のIT企業/農業法人や教育機関などが中心となり活動している「東北スマートアグリカルチャー研究会(T-SAL)」だ。大企業では実現できない地域連合ならではの取り組みとは? - 放射線計測から環境・農業ICTまで――コアのM2Mサービス基盤にIBMのクラウドサービスを採用
コアのM2Mサービス「ReviveTally」のクラウド基盤に、日本IBMの「IBM SmarterCloud Enterprise」が採用された。これに併せ、ReviveTallyを活用した「簡易放射線計測ソリューション」および「環境・農業ICTソリューション」の提供を開始する。